赤ワインの謎
日本人の死因の第1位は癌(がん)で、第2位脳卒中、第3位心臓病とつづきますが、欧米では多くの国で心臓病が死因の第1位を占め、その原因として、肉類、卵、牛乳、乳製品のバターやチーズなどによる動物性脂肪の過剰摂取が指摘されています。事実、各国の乳脂肪摂取量と心臓病死亡率の関係をみますと、乳脂肪摂取量の多い国ほど心臓病死亡率が高い、という正比例の関係があります。
例外中の例外はフランスで、同国では癌が死因の第1位、心臓病は第2位。フランス料理は伝統的に、ソースにバターや生クリームをたっぷりつかい、デザートにチーズを食べます。この結果、乳脂肪摂取量はドイツなどより多いにもかかわらず、心臓病死亡率はドイツの半数におさえられています。
この矛盾は「フレンチ・パラドックス」とよばれ、動脈硬化学説を支持する医学者の頭をなやませてきました。
フレンチ・パラドックスの謎(なぞ)を解いた論文がイギリスの権威ある医学週刊誌『ランセット』(1992年6月20日号)に掲載され、注目をあびました。それによると、各国の1日1人当たりの乳脂肪摂取量にワイン摂取量の影響を加味して次の式のように補正しますと、yは各国の心臓病死亡率に近い値をとるといいます。
y = 145 + 乳脂肪摂取量 × 0.138 - ワイン摂取量 × 0.917
つまり動物性脂肪の摂取量が多くても、ワインをのんでいれば、心臓病のリスクが軽減されることが、この論文で示唆されたのです。
この情報をいちはやく入手したアメリカのCBSテレビのニュース番組『60 MINUTES』が、フランスに心臓病で死亡する人が少ないのは、赤ワインを毎日のんでいるからだと報じたため、全米の店頭から赤ワインがきえる騒ぎまでおこりました。
ただし、フランス人の平均摂取量(1日当たり180ミリリットル)以上に度をこしてのめば、アルコール性肝障害の危険が高まります。心臓病の少ないフランスは、アルコール性肝硬変の世界一多い国でもあることを、おわすれなく。
イヤーブック 1998年2月号より
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