ニホンカモシカは、氷河期時代から存在し、あまり進化せずに原始的な形質をとどめているというところから「生きた化石」と呼ばれてます。また、縄文弥生時代の遺跡の中から、ニホンカモシカの骨が出土してるところから食用されていたことがわかっています。ニホンカモシカと日本人のおつきあいは古いのです。
そのために地方によって、さまざまなニホンカモシカの呼び名があり、64種類以上の呼び名があるとか。1種類の動物でこれだけの多くの地方名で呼ばれている動物というのは他にちょっとありません。あとえば、ある地方では、ニホンカモシカのことを、オドリジシとか、バカジシと、呼んでいます。
なぜかと言いますと、ニホンカモシカは、好奇心が強いために、人間が踊りながら近づいていくと凝視する癖があるんです。なにが上がってきたんだろうか、と、じーっと見ているんです。
そのキャラを利用した猟がありまして、これは「遠山奇譚」にも図が載っておりますが、一人が手ぬぐいを持って踊りを踊っていて、残りの一人が、見ているカモシカの後ろに回って狩りをするんですね。そこから、バカシシ(馬鹿肉)。オドリを踊ってみせると、じっとしているので、オドリジシ。と言われているんですね。
そこで思い出すのが、『もののけ姫』に出てくるシシガミですが、あれは間違いなくニホンカモシカですね。キャラが鹿ではありません。ニホンカモシカです。ニホンカモシカの性格にそっくりです。ニホンカモシカは、シシガミ様であり、人間たちと深く繋がっていたのです。
ところがニホンカモシカを飼育した最初の記録は明治9年。当時の山下町博物館動物飼育場(上野動物園の前身)で栃木県産のものが飼育されたという記録が1件あります。第2次世界大戦前には、この1件だけです。ニホンカモシカというのを飼育したという記録は、明治9年の記録があるだけで、他にゼロでした。にもかかわらす、密漁によってニホンカモシカは全滅の危機に陥り、昭和30年頃には、3000頭まで減ったと言われています。ニホンカモシカは、絶滅の危機を迎えました。
ちなみに「カモシカのような足」という言葉がありますが、この言葉が流行したのは、戦後間もないころです。「カモシカのような足」と聞けば、すらりとしたバネのある足を思い出しますが、残念ながらニホンカモシカの足は、すらりとしていません。短足で太いです。
なのに「カモシカのような足」と言う言葉がはやり、カモシカの足に女性はあこがれていた昭和30年代は、ニホンカモシカは全国で3千頭ぐらいしかいなく、絶滅寸前で実際のカモシカを、日本女性たちは、じっくり見たことがなかったのですね。だから日本女性は、カモシカの足に憧れたわけです。