祖母の言ったことは本当でした。待てど暮らせど雪ん子は現れませんでした。「やっぱりウソハチだったのか」とガッカリした私は、病院でウソハチじいさんをさがしだし、
「ウソハチ! ウソハチ!」
と囃し立てました。それも毎日です。時には、友人まで連れてウソハチじいさんをなじりに病院に通い「ウソハチ! ウソハチ!」と口撃して囃し立てました。思えば、ずいぶん酷いことをしたものですが、回りの大人たちも笑ってみているだけでした。そして、ウソハチじいさんは、ひたすら私たちを無視しつつ、病院の待合室で黙想していました。
そして、数日後、いつものように病院の待合室でウソハチじいさんをからかっていると、私を叱りつける50歳くらいの御婦人が現れました。私が造った雪人形に手をあわせ「人形は大事にせんとな」と言ってくれた人でした。その人は、恐ろしい怪力で私の首根っこを掴んで病院の外につれだしたのです。
「だって、ウソハチじいさん、ウソをついたんだもの」
「どんなウソだ?」
「雪人形を造ると雪ん子がでると言ったけれど、雪ん子なんかでやしない」
「・・・・」
「それにみんな言っているよ、ウソハチじいさんは、ウソをつくから関わるなって」
「バカなことを。お前は、みんなが泥棒をしたら、おまえも泥棒するのか?」
「・・・・」
「みんなが人を殺したらをしたら、おまえも人を殺すのか?」
「・・・・」
「みんながお前のお母さんをイジメたら、おまえもお母さんをイジメるのか? みんながお前のお父さんに石を投げたら、おまえもお父さん石を投げるのか? みんなのせいににしてはいかん。悪いことは、悪いこと。第一、あのジイサンは、ウソをついてはおらん。雪人形を造ると雪ん子がでるというのは本当のことだ」
「出てないもの」
「お前は、まだ雪人形を完成してないじゃないか」
「え?」
「人形というものは、目を入れてはじめて完成するものだ。お前のこさえたものには、目が入ってないだろうが。もちろん、目を入れても雪ん子は出てこないこともありえる。しかしな、出ないほうがいいんだよ」
「どうして?」
「春になれば雪はいずれ溶ける。その時に雪ん子は、消えてしまう。かわいそうだと思わんか? ひと月やふた月で消えてしまわなければならない雪ん子を造ってしまっては、その子が哀れだとおもわんか?」
「おばさんもウソハチか?」
「これは、ウソとか本当とかの問題ではないよ。そういう気持ちが大切だと、あのジイサンは、言っていたの。わからんのか?」
「わからん!」
私は、走り出しました。
そして家に駆け込むなり、墨汁を手にして外に飛び出しました。
そして数日前に造った三体の雪人形のところに向かい、
雪人形に目を入れたのです。
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