ストーリーが「鶴の恩返し」と似ていないことはないですが、やはり「鶴女房」と「鶴の恩返し」は別の物語でしょう。
つうは、自分が鶴であるという十字架を背負い、恋した若者に嫁ぎました。その恋心も、お金に目がくらんだ夫によって、踏みにじられてしまったのでした。若者は、『綾錦』を手に入れた代りに、とても大切なものを失ったのでした。
愛を語った物語。それが「鶴女房」です。だから「鶴女房」は、「鶴の恩返し」とは根本的に違う物語と言えます。しかし、「鶴の恩返し」と「鶴女房」は、何かとストーリーが似ている事は確かです。テーマが違うのにストーリーが似ている。これはどう言う事なのでしょう。
実は、この疑問は、私にとっては子供の頃からの謎でした。
疑問を解く鍵は『綾錦』にありました。御存知のとおり、鶴の羽は真白です。真白な羽を使って機を織っても、その織物はただの白い織物ができるだけです。しかし、もし、鶴の羽が淡いピンク色だったらどうでしょうか? 白の織物は、淡いピンク色の模様がつき、高価な『綾錦』ができる可能性があるかもしれません。
そして、もう一つ疑問を解く鍵があります。それは鶴という鳥にあります。佐渡島には鶴はいません。とくに「鶴女房」の語られた北片辺では、鶴の住める環境が全くないのです。それなのにどうして「鶴女房」が語られたのでしょう? そして、それは佐渡島の方言です。当然の事ながら「鶴女房」は佐渡島の方言で語られてましたが、「鶴」のところだけ、佐渡島の方言で語られていません。これはどういう事なのでしょう?
佐渡島には「鶴」はいません。
でも、「朱鷺」はいます。
絶滅寸前ですが、「朱鷺」なら、今でも存在しています。
その昔、朱鷺は、スズメやサギとならんで憎い鳥として
鳥追い歌に歌われるほどいました。
全国の何処にでも、たくさんたくさんいました。
そして朱鷺は、すずめ、さぎと共に、朱鷺は百姓たちの敵でした。
朱鷺は蛙や虫たちを求め田畑を荒らしたからです。
百姓たちは、そんな憎い朱鷺に罠をしかけたものです。
「鶴女房」では、罠にはまった鶴を若者が助けた事になっていますが、
それは考えにくい事です。
しかし、朱鷺なら考えられます。
これは、あくまでも私の仮説なのですが、「鶴女房」は、本当は「朱鷺女房」だったのではないでしょうか?
佐渡島の方言では、朱鷺の事を「ドウ」「トウ」「ツウ」と言います。民話採集者が、佐渡島の方言を知らず、朱鷺を意味する「ツウ」と言う言葉を「つる」と聞き間違った事は大いにありえます。だから、「鶴女房」が本当は「朱鷺女房」であった可能性は大です。そして、それが本当だとすれば、「鶴女房」いや「朱鷺女房」に於ける全ての謎が解明されてきます。
つづく
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