これは、あくまでも私の仮説なのですが、「鶴女房」は、本当は「朱鷺女房」だったのではないでしょうか?
佐渡島の方言では、朱鷺の事を「ドウ」「トウ」「ツウ」と言います。民話採集者が、佐渡島の方言を知らず、朱鷺を意味する「ツウ」と言う言葉を「つる」と聞き間違った事は大いにありえます。だから、「鶴女房」が本当は「朱鷺女房」であった可能性は大です。そして、それが本当だとすれば、「鶴女房」いや「朱鷺女房」に於ける全ての謎が解明されてきます。
木下順二の「夕鶴」の主人公は、「つう」と言いました。
つうとは、雪国の方言で朱鷺のことをさします。
そして田畑を荒らす憎い鳥、つまり(朱鷺)を
助けてあげた若者がいた。
本来、敵対関係にある若者が、敵である朱鷺を助けた。
朱鷺は、そんな若者に恋をした。
ちなみに朱鷺は、一夫一妻。そして生涯を連れ添います。朱鷺の夫婦仲が良いことは有名で、子供の頃から時間をかけて相性の合う相手を探し、一生別れることはありません。そんな朱鷺が人に恋をし、人間の姿に変えて若者のところにやってきたのですから、鶴女房が朱鷺女房だったとしたら、この物語には深い意味があると言わざるをえません。
それはともかくとして、人間と朱鷺は、結婚します。そして幸せに暮らそうとするわけですが、もともと一人がやっと食っていける貧乏家に、嫁がやってきたために家はますます貧しくなります。そもそも、田畑を荒らす憎い鳥朱鷺を逃がしてやるくらいの若者ですから豊かな生活をおくるのは難しかったでしょう。若者は、妻に貧乏で苦労させることを謝ります。しかし、朱鷺女房は平気です。米がとれなくとも田畑の蛙などを食べれば生きていけるからです。しかし、そんな朱鷺女房も、冬ともなれば餌もなくなりますから大変です。食べるにも苦しむことになります。ですから機を織ることを決意します。
「これから私は、機をおりますが、決して中を覗かないでください」
「ああ」
冬に機を織る。
これは雪国では珍しい風景ではありません。
昔は、どこにでも見られる風景でした。
話は変りますが、朱鷺の羽は淡いピンク色をしています。
その美しさと言ったら鶴の比ではありません。
染色家(染物家)たちは、この色に憧れた事でしょう。「もし、朱鷺の羽が織物になったら」と、考えたに違いありません。そのもしを実現したのが朱鷺女房でした。美しい『綾錦』を朱鷺女房は織ったのです。
つづく
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