宿屋をはじめた人間には、ある種の刷り込みがはいっている事が多い。
その昔、民宿をやっていた友人の厨房にお邪魔したとき、
「アッ」
と驚いたことがありました。
皿の大半がプラスチックやアクリルだったからです。
さらに、その人の得意料理が和食だったので、余計に驚いてしまった。
まな板も包丁も立派な物を持っているし、
こだわってダシをとる人なのに、皿がプラスチック。
ひとことで言って
「ありえない」
しかも食堂が蛍光灯だった。これも
「ありえない」
だから、さんざん忠告したのですが、頑固な彼は私の忠告を聞かなかったんです。
そして気がついたら廃業してました。
しかし、どうして皿がプラスチックで平気だったのだろう?
どうして食堂が蛍光灯で平気だったのだろう?
という疑問は、ずっと心に引っかかったまま年月がたちました。
で、ラーメン屋を開業した別の友人のところに御祝いに行って、また驚いてしまった。
丼とコップがプラスチックだったからです。
あんまり驚いたので、ちょっと考えてみました。
皿がプラスチックで平気な、二人の友人の共通点はなんだろう?と。
で思い当たったことは、二人ともチェーン店の居酒屋に勤めていたことです。
チェーン店の居酒屋には大した皿はありません。
そもそも大した料理もない。
チェーン店の居酒屋の基本は、不味くない料理を出すことにあります。
加工も本部がやっていて、店では盛りつけるのが大半の仕事になる。
皿だって壊れにくいものを使うからプラスチックの皿もあったりする。
1枚五千円の皿を使うことは絶対無い。
百円ショップの皿が中心になる。
つまり最初に働いた店のスタイルが、刷り込まれているということ。
本人は気がついてないけれど、刷り込まれている。
そう考えると私も刷り込まれていることに気がつきました。
私の調理経験は、そこそこ高級な割烹と、魚河岸のマグロ屋です。
出汁巻き卵だけで千円もする店がスタートだったので、
プラスチックの皿は、絶対にありえない。
食堂の蛍光灯もありえない。
私は、食器と照明が、料理の味を変えてしまうことを、これでもかといういくらいに学んでいるから、メインの皿が五千円以下ということはありません。ニッコー・ナルミ・ノリタケなどのブランド物を必ず使っています。そうしないと御客様に失礼だという、そういう刷り込みをされている。また、味も変わってくるという刷り込みをうけている。
まあ、そんなことは良いとして、それを考えると、うちの宿に一つ問題があることに気がつきました。うちの嫁さんです。うちの嫁さんは、調理場で働いたことが無い。そのために彼女は、私の作法を刷り込まれている。つまり、私という限界があったということですね。
「こりゃいかん」
と思った私は、慌てて嫁さんを高級料理店に連れて行くことにした。
まず嫁さんに高級料理を食べさせて、学ぶことからスタートしないとと思ったんです。
つづく
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