2011年 通風男の北アルプス縦走記5
私が、奥穂高山荘で、重大なミスをしてしまったことは、前にも述べました。
当初の計画では、
上高地−奥穂高−奥穂高山荘泊−涸沢岳−北穂−南岳山荘泊−槍ヶ岳
の予定でした。しかし、南岳山荘はクローズしているとのことを聞いて愕然。
南岳小屋が閉まっているとしたら、大キレットを含めて
槍ヶ岳小屋まで10時間の距離を歩くことになる。
これは、ちょっと難しい。10月は日没が早い。
それに稜線歩きは、上り下りと違ってコースタイムを縮めにくい。
朝、6時半に出たとして、休憩なしで、16時半になる。
しかし日没が、17時20分。
南岳に泊まれない場合、槍ヶ岳までの縦走は、かなり危険をともなう。
槍ヶ岳に行くか?
行かないで下山するか?
悩んだあげく、槍ヶ岳を目指すことにし、まずは北穂まで行くことにしました。
しかし、ここで不安材料がでてきた。
稜線の風が強いのです。
強風になると、岩登りに危険がつきまとう。
で、槍ヶ岳までは、岩の連続。しかも10時間という長丁場。
とりあえず、涸沢岳まで登るには登ったのですが、風はますます強くなってくる。
で、同行の嫁さんの顔をみてみた。
唇が紫になっている。
爪の元の部分が紫になっている。
そして質問してみた。
「山小屋の食事は美味しかった?」
「うん」
「甘いものや、酸っぱいものが、必要以上に味覚を感じることはなかった?」
「うん」
こいつはヤバイ。
栄養を完全にとりきれてない。
知らないうちにダイエット体勢に陥っている。
そのために、あきらかに免疫力が低下している。
ダイエットすると免疫力が低下して風邪をききやすくなりますが、これはタンパク質やビタミン不足が原因です。私たち場合は、ダイエットではなく登山なのですが、登山にも同じような症状になることがあります。実は、その予兆は、山小屋で休んでいるときに現れてきていました。ふだんより神経が過敏になって、食事が必要以上に美味しかったり、夕日や朝日が必要以上に美しく見えたりしていたのですね。また、臭いにも敏感になっており、寒さや風にもすぐはんのうし、ハウスダストなどにも敏感になります。
実は、こういう経験は、登山いがいでも体験したことがあります。三十年くらい前に、麦粥などの粗食で1週間くらい座禅修行したことがあったのですが、その時も、同じような感じになったことがありました。何に対しても敏感になってくるのです。
山岳会の先輩(医師)は、タンパク質の不足による免疫力の低下で、まれにそういう状態になると教えてくれたことがある。免疫力が低下すると、ふだんなら反応しないことにも、体が反応してしまうのだそうです。免疫力は、イコールタンパク質でもあるので、登山によって疲労が大きくなると、体が敏感になるのですね。
逆に言うと、それを逆手にとって、宗教家たちは、登山などの業によって、何かをつかみとるのでしょうが、私は、宗教家でも何でもない年寄りなので、この免疫力低下は、深刻な問題です。夫婦で強風の中を三千メートルの稜線を十時間歩けるかというと、ちょっと自信がなくなってきた。
「仕方ない下山しよう」
という訳で、涸沢岳まで登ったところで下山する決意。
もう無謀な登山ができる年齢でもないし、
嫁さんも一緒だし安全な登山をしなければならないんだと自分に言い聞かせて下山開始。
決断してからの下山は、早かった。
稜線を下ると、強風は、ばったりやみ、
嫁さんの唇の紫色は、徐々に解消していった。
標高をさげていくと、空気が濃くなっていくのが分かる。
昨日は、一日で3100メートルまで登り、
今日は、一日で3100メートルを下るのです。
体が酸素の量に敏感になっている。
相変わらず、涸沢は美しい。
何回きても美しい。
穂高連峰は、火砕流。つまり溶結凝灰岩でできているので浸食されやすい。
そのために氷河の餌食となって、涸沢といった巨大カールができたわけです。
逆に槍ヶ岳や、剱岳は、山が堅くて浸食されにくい。
氷河にやられにくいのです。
涸沢ヒュッテに到着。
北アルプス有数の山小屋です。
★★★★★の山小屋です。
ここで、ひとまず休憩。
朝日を浴びながらコーヒーをすすりました。
おもえば最高の贅沢だったかもしれません。
嫁さんとコーヒーを飲み終えて、下山することにしました。
ルートは、パノラマ新道です。
本当は、横尾経由で涸沢を降りるのが一般的なのですが、
今回は、槍ヶ岳に未練を残しての下山だったので、
槍ヶ岳を望めるパノラマ新道経由で、上高地に向かいました。
北穂高が見えています。
頂上には、山小屋(北穂山荘)が見えます。
眼下には、横尾に向かう本谷が。
で、見えてきました。槍ヶ岳が!
大キレットもよく見えます。
本谷から槍ヶ岳の様子がよく見えます。
パノラマ新道を歩くこと、30分くらいのところです。
つづく。
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