はれて医師となった元ヘルパーの宇山君と、少しだけ会話できた。
「僕は、みんなとベクトルが違うんですよね」
「どういうふうに?」
「同僚は、大学に残ることをめざしている人ばかりなんですが、僕は町医者として患者の中に入っていきたい」
「だったらヘルパーの体験は、すごくいい体験だったね」
「そうですね。相手の話をきくという経験が、症状を聞き出すノウハウになっているかもしれない」
そうなのだ。
彼には、その力がある。
それに彼は、ベットメイクのできる医者なのだ。
実は、北軽井沢ブルーベリーYGHのヘルパーで医者になった人は何人もいる。
彼だけでは無い。
しかし、彼だけは毛色が変わっている。
医者っぽく無いし、知らず知らずのうちに日常会話で上から目線の医者言葉を使っている自分に嫌気がさすという人間なのである。誠に医者っぽく無い。
ちなみに、なぜ彼が医者っぽく無いかというと、元は農学部の学生であり、全国のユースホステルでヘルパーを経験していたからである。もちろん、ホステラーとして全国を黴びしてもいる。だから、北軽井沢ブルーベリーYGHに来たときも、最初からヘルパーとしての実力があった。
それだけでなかった。異なるユースホステルのマネージャーと一緒に働くことによって社会の裏側もみていた。実は、ユースホステルのマネージャーは味が濃い。御客さんの前では見せない常識を逸した姿があるのだ。海千山千なのがユースホステルのマネージャーなのである。
だから私も、ごく僅かな例外を除いてユースホステルのマネージャーたちとは、あまりつきあいが無い。むしろ御客さんと一緒にいたほうが「ほっ」とする。そういう過酷な環境の中で、彼は鍛えられていた。そのうえ農学部を卒業してから医学部に入った。最初は、農家のあとを継ぐ予定だったのだが、農家では食っていけない現実を見せつけられ、思うところがあって医学部に入った。
ものすごい遠回りである。
実は、私も彼に負けず劣らず、遠回りしている。詳しいことは、長くなるので省くが、かなりの遠回り人生である。学校は、宿屋と全く関係の無い芸術系であった。仕事も、宿屋と全く関係が無いものばかり。さらに夢からして宿屋と関係が無かった。むしろ嫁さんのほうの「夢」がペンションオーナーであったから、子供の頃の夢が叶ったのは、私ではなく嫁さんの方である。むかし、勘違いした御客さんが、うちの嫁さんに対して
「旦那さんの夢に振り回されて無理矢理に宿屋をやらされてない?」
と、盛んに言っていたが、その無茶苦茶な勘違いぶりに、嫁さんは大笑いしながら、その事件を私に語ってくれたことがある。
うちの嫁さんは、学校の卒業文集にペンションオーナーになって、なになにをするのが夢だと書いて有るくらいなのである。だからヨメさんは、遠回りからほど遠い。むしろ29歳にして、ペンションオーナーになっているから近道をしているともいえる。ふつう、女性が29歳でペンションオーナーになるのは難しい。そういう意味では、すごい近道しているのだが、近道が必ずしも、良いことばかりだとはかぎらない。遠回りの方が、よいこともたくさんあるのだ。近道しすぎると、世間知らずになって、あとで苦労するのだ。
例えば、飲食店で働いたことが無い嫁さんは、食洗機を買うかどうかで、私と大激論になった。嫁さんは、100万円もする食洗機は必要ないと言い張った。で、1年目には、食洗機無しで営業するはめになって、私の手はボロボロになって、皿を洗うたびに皮膚が割れて血が流れた。皿も深夜1時頃までかかって洗った。当然のことながら接客に影響するために、良いことは無かった。だから私は、飲食店で働いたことが無い人とは議論はしないことにした。相談せずに勝手に食洗機を注文した。遠回りをしてないと、このあたりの事情が、よくわからないのである。
遠回りは、人を賢くさせる。
それは確かなのだ。
そういう意味では、遠回りしたお医者さんが増えてくれるのは、うれしい。
つづく。
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posted by マネージャー at 08:27|
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