日没後、私は星をながめた。
悔しいけれど、穂高からみた星空は、北軽井沢の星空よりよくみえる。
夏の大三角、秋の四角形がくっきりと見えた。
北斗七星だけは、涸沢岳の陰に隠れてみえなかったが。
すると暗闇の中で「こんちわ」と私に声をかけてくる人がいる。
食事のときに同じテーブルにいた人である。
「一杯(酒)やりませんか?」
「いやー飲めないんです」
本当は飲みたいのだが、しばらく岩場で星をみる予定なので、酒は飲まないことにしている。危ないからだ。
「それにしても今夜は星が綺麗ですね」
「あっ、本当だ!」
私は、得意の星の解説をしはじめた。すると、人が、わんさか集まってきた。気がついたら二十人くらいにかこまれている。山屋さんたちは、好奇心が強いのである。このへんは、ユースホステルのホステラーさんたちと、何ら変わりが無い。その人混みの中から、途中まで同行していた少年と再会した。高校を中退して、山登りをしている少年である。
「おう、また会ったな。今日は、穂高山荘に泊まり?」
「はい」
彼とは、1時間ほど一緒に歩いて涸沢ヒュッテで分かれた。お互いに一人だったので、気が合ったのもある。けれど、きっかけは少年が山に無知だったので、多少の常識を教えてあげたのがきっかけとなって1時間ほど一緒に登ることになった。
最初、少年は、なぜ山で挨拶をするんだ?と怒っていた。
挨拶がめんどくさいと思っていたのだ。
これでは怪我をするなと思った私は、信じられないことに、少年に余計なお節介をした。
「君は、山を登るときに足下をみているね」
「ええ」
「そんな時、上から人が、音も無くやってきたら危ないだろ?」
「はい」
「だから山では、2つのルールがある。挨拶をして、人がいることを知らせて相手に危険を察知させる。もう一つは、上をみてない登りの人を優先させる。命にかかわる登山では、この2つは重要なんだよ。とくに岩場の挨拶はね」
「なるほど」
「それに大声での挨拶は、思わぬ得もある」
「どんな?」
「山で知り合いと出会えるんだよ」
実際、去年も一昨年も、そして今年も、挨拶することによって知り合いと出会う私であった。それは、ともかく、この少年に、星の見方を教えたら、興味をもったらしく、私が寝たあとにも、さかんに星をながめていた。天文の勉強をしようかな?と呟いていた。
翌朝、朝食はとらなかった。
5時半の御来光をみるためである。
そのかいあって、絶景をおがめた。
つづく。
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