2015年09月15日

軽井沢周辺で雨でも楽しめそうな所 4美術館めぐり編 【特色のある美術館】

◆ル・ヴァン美術館

 なんか美術館があるぞ、行ってみようか?と安易に行くべきでない美術館です。ここに行くなら、どうしても西村伊作についての予備知識がいります。西村伊作と言っても、大半の人は聞いたことがないと思いますから簡単に説明しますと、建築家であり教育者であり生活改善の運動家です。父親が敬虔なクリスチャンであったために旧約聖書に登場する、イサクから伊作と名付けられたらしいですが、本人は無宗教でした。



 西村伊作は、非常に多才な人だったらしく、家業である山林管理と材木商を継いで、欧米建築で自宅をを設計して住み、大正4年に『楽しき住家』を出版、翌年には兵庫県御影町に西村建築株式会社を興し、そして与謝野夫妻と軽井沢に1週間ほど滞在して、市村記念館の解説でも説明した『あめりか屋』の洋風別荘を見学したりして、大正6年に与謝野夫妻の『明星 (文芸誌)』に「『家』のこと」と題した建築論の連載を開始しています。

 そして西村伊作は、理想とする西洋風の衣食住研究のため、与謝野夫妻、堺利彦、沖野岩三郎を顧問に「西村芸術生活所」も新設し、芸術的生活の啓蒙雑誌の刊行や、駿河台に日本人に生活改善を教えるためのホテル建設、小田原に芸術家用の文化住宅を集めたコロニーの建設などを計画しています。

 また彼は、娘(長女アヤ)のために当時の学校令に縛られない自由な学校を作ることを決意。大正六年に駿河台に文化学院を創立。校舎は伊作自身の設計で建てられ、当時の学校建築の常識を離れ、英国のコテージ風の建て物にし、かなりの話題を呼びました。ル・ヴァン美術館は、創立当時の校舎が復元されたものです。



 とまあ、長い前置きになりましたが、ここは美術館を見学と言うより、美術館の建物を見学するところなわけです。一見すればわかりますが、当時、簡素な校舎が多かった大正時代においては、めずらしくモダンな建築でした。英国のコテージ風に西村伊作が設計した楽しい建築と庭園は、革新的でした。それが駿河台にあったわけです。

 おまけに学校の教育に参加した著名人の多いこと。石井柏亭が率いる二科会の山下新太郎、有島生馬、正宗得三郎、中川紀元等や水彩の赤城泰舒、棟方志功、ノエル・ヌエットらが美術面を、また文学部長に、与謝野鉄幹、晶子夫妻、菊池寛、川端康成、佐藤春夫、有島武郎、茅野蕭々、戸川秋骨、竹友藻風、奥野新太郎、堀口大学、北原白秋、芥川龍之介、遠藤周作、高浜虚子、萩原朔太郎。音楽面では主に、山田耕筰、エドワード・ガントレット、伊達愛、萩野綾子、浅野千鶴子、ハンカ・ペッオード。

 ただ残念なことに戦争中は、「自由思想は戦時体制に合わない」と強制閉鎖され軍部は、校長西村伊作を拘禁して、連合軍捕虜収容所にしています。そしてアメリカ軍捕虜を使って文化学院から東京ローズで有名な『日の丸アワー』というラジオ番組を放送しました。その放送の中に、アメリカ軍捕虜たちは、ヒントを織り交ぜ、その結果として、捕虜施設のある御茶ノ水駅界隈が空襲を免れています。(大量の古本が焼けずにすんでいる)

 戦後は、美術科、日曜美術科、英語科を創設。無宗教の修養講座「文化教会」を立ち上げて、専修学校として活躍するのですが、残年ながら高等課程は現在募集を停止しています。

http://bunka.gakuin.ac.jp/

 駿河台の建物もビックカメラの子会社でBS11チャンネルの放送を手がける日本BS放送に売り飛ばされたようで、いまは両国に移転しているようです。文化学院の名残は、ル・ヴァン美術館にしか残ってないようです。

長野県北佐久郡軽井沢町長倉957-10
TEL:0267-46-1911
http://www.levent.or.jp/index.html




◆脇田美術館



昭和期に活躍した洋画家脇田和氏の油絵、水彩画、デッサン、版画など200点以上展示されています。この人の熱狂的なファンも少なからずいます。どんな絵かというと脇田和氏の絵が、ネットで見られるので御覧下さい。
http://matome.naver.jp/odai/2136981029749523801

建物は、軽井沢聖パウロカトリック教会を設計したアントニン・レーモンドに師事した吉村順三の設計です。箱根ホテル小涌園とか、奈良国立博物館、八ヶ岳高原音楽堂なんかも設計しています。ちなみに師匠のレーモンドに日本建築を伝えたのも彼で、レーモンドは、その時に学んだ技術を生かしてユタ州の砂漠に東京下町の木造家屋の続く街並みを再現し、東京大空襲のための実験を行っています。



長野県北佐久郡軽井沢町旧道1570−4
TEL:0267-42-2639
http://www.wakita-museum.com/


◆田崎美術館

 洋画家田崎広助の作品を永久保存展示するために作られた美術館。彼の画風は、非常に特色があって、見れば脳裏にやきつきます。特に山の絵が多く、阿蘇山・富士山・浅間山の絵が有名です。ネットで見られますので確認してみてください。

http://www.oida-art.com/buy/artistwork/130_1.html

 田崎廣助は昭和41年から軽井沢三笠にアトリエを持ち、浅間、白樺湖を背景に蓼科、八ヶ岳、妙高と野尻湖など多数の作品を世に残しました。

 ちなみに田崎美術館の活動は、かなり活発で、いわゆる『やる気のある美術館』です。公募展、講演会、研究会など文化社交の場としても活用しています。詳しくはFacebookで確認してみてください。

https://www.facebook.com/tasakimuseum

 建物館は原広司氏設計で斬新なつくりで、中庭を囲み、展示室、資料室、応接室、研究室そして広くレイアウトされたロビーなど機能的にもすぐれており、昭和61年日本建築学会賞を受賞しています。

長野県北佐久郡軽井沢町大字長倉横吹2141−279
TEL:0267-45-1186
http://tasaki-museum.org/




◆南ケ丘美術館

 私が個人的に一押しするのがここです。東山魁夷、梅原龍三郎の絵画、ピカソの陶芸作品などから、屏風や壺といった古美術品まで幅広く収蔵されていますが、でも、そんなもの、どうでもいい。

一番に見るべきは、三五荘(国登録有形文化財)でしょう。

 三五荘は山梨県塩山市で江戸時代後期に建てられた民家を、日立造船の原田六郎氏が昭和10年に軽井沢へ移築・改修したのにちなみ「三五荘」と命名しました。その後、五島慶太氏・昇氏の別荘となり、20年前に中央工学校の所有になっています。天皇陛下(皇太子時代)や近衛文麿氏なども来訪しています。建物は160年以上の歴史があります。これだけは、みておきたい。

歴史マニア・民俗学マニア・建築関係者は、絶対に見るべき建物です。


長野県北佐久郡軽井沢町大字軽井沢1052-73
TEL:0267-42-4884


つづく。

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posted by マネージャー at 21:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 業界裏話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする