今回紹介するのは、『美女とネズミと神々の島々』です。ノンフィクションの実話というか、著者の体験記というか、ルポルタージュです。この本に出会った人は、少ないでしょう。なにしろ昔の本ですから。

昭和36年といえば、私が生まれた年ですが、その昭和36年に朝日新聞の社会部が、『底辺に生きる』というシリーズを4回にわたって企画しました。それぞれ、いろんな地域の底辺を新聞記者たちが取材をして、それを発表したわけですが、そのシリーズの最後が、朝日新聞九州支局の秋吉茂氏の書いた
『美女とネズミと神々の島々』
でした。
私が『美女とネズミと神々の島々』を読んだのは、とある学校で秋吉茂氏の講義を受けたことがきっかけです。つまり秋吉茂先生は、私の恩師でもあります。
秋吉茂先生は、九州福岡県の田川の生まれです。旧制中学校時代に、とある事件(冤罪)で退学となり、ほぼ全国の学校で締め出しをくらったのですが、ただ一校だけ受け入れてくれる学校があり、そこに入学。そして第二次世界大戦が始まり、徴兵されて暗号解読班に回されます。終戦後に復員し、福岡県田川高等学校の国語教師となりますが、ある新聞記事に涙が止まらなくなります。それは
「崖に転落寸前のバスに対して、我が身を輪止めに
バス車掌、乗客の命を救う」
その記事に感動した秋吉茂先生は、朝日新聞九州支局の新聞記者に転職します。そして、数々の名文を書き上げて、多くの読者を感動させました。例えば、映画化されたこともある「百万人の大合唱」。福島県郡山市で、音楽で暴力を追放した実話など、多くの名作を残しています。その中でも名作中の名作が、『美女とネズミと神々の島々』です。

この連載が始まると、大変な反響となり、匿名の中学生・高校生・大学生たちから「悪石島に送ってください」という寄付金が、朝日新聞にどっさり届きました。筑後柳川市のポッポ幼稚園では、園児たちが、お小遣いをあつめて、当時の金で六千円(今の物価なら12万円以上)も寄付しています。尼崎の女医さんは、
「島の女の子を引き取り洋裁を習わせて自立させたい」
と言い、大阪の中島金属の社長は、
「島の男の子たちに進学をさせてやりたい」
と言い、奈良県五条東中学校では、悪石島の友へ運動を始めるし、家電メーカーは、当時、高額だったテレビを学校に寄付しました。島には自家発電機が届き、夕方の二時間だけ電気がつくようになった。島の人たちは、映画どころか幻灯(スライド上映)さえ見たことがなかったので、さぞかしテレビに腰を抜かしたことでしょう。
とはいうものの、そんな昔の話ではありません。私が生まれた昭和36年の頃の話です。日本が豊かになった頃で、高度経済成長真っ只中の話です。そういう時代に、「こんな世界があったのか?」と驚かされます。
しかし、この『美女とネズミと神々の島々』は、単なるルポルタージュではありませんでした。最後には、感動のラストシーンが待っています。目に涙の洪水が流れてしまう。実話であるだけに感動も大きいし、なんとも言えない、すがすがしい気分になる。
ちなみに「美女」とは、島全体の若い女性たちのこと。写真でみると確かに美女である。しかし秋吉茂先生は言います。大人の女性は、長い間の粗食と過労によって花の命をけずりとっていると。あまりに過酷な生活なために美女の命が短いと。どんな美女も、すぐに皺だらけになって老婆のようになってしまう。

そして「ネズミ」とは、ネコぐらいの大きさのネズミで、何十年かに大繁殖して海を泳いで渡ってくる。そして農作物を食い荒らして、また海を泳いで去っていく不思議な生き物のことです。いったい、この生き物は、今でも存在しているのだろうか?
最後に「神々」ですが、複数形です。なので一部の神を写真で紹介します。

最後に秋吉茂先生は、この島の取材をあきらめます。志なかばで立ち去ります。あまりにも激しい環境に、体を壊してしまったからです。そして、島を去っていき、この体験を、朝日新聞の『底辺に生きる』シリーズで、10回にわたって連載され、日本中に悪石島ブームがやってくることになる。
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