今回紹介するのは、日本ユースホステル協会の創設者である中山正男氏の自伝。『馬喰一代』です。『美女とネズミと神々の島々』が100%の実話ですが、この『馬喰一代』には、かなりの脚色が入っています。
そういう意味では、『美女とネズミと神々の島々』と『馬喰一代』は真逆な性質をもっています。では、なぜ中山正男氏は、大きく脚色をしたのでしょうか?
時々、こんなに不幸な少年時代があるのか? と驚かされる伝記を読む事がありますが、中山正男も、そんな少年時代をおくっています。彼は、己の自伝を「馬喰一代(ばくろういちだい)」という小説にし、それが直木賞候補になったりもしましたが、内容に大きな脚色がありました。
本当は、もっと不幸でした。
しかし、彼の場合、事実を事実のままに書きますと、リアルさに欠けてしまいます。あまりにも悲惨すぎる過去は、それ自体がフィクションに思えてしまう。2ちゃんねるにアップしたら「嘘松」とか「ネタだろう?」とか「それって何て言う都市伝説?」と言われかねません。だから、真実を十倍の水で薄めて自伝を書かざるをえなかった。それでも、悲惨すぎる物語になってしまう。
事実は小説より奇なりとは、中山正男の自伝「馬喰一代」にこそ言えるかもしれません。中山正男の人生は、馬喰一代に書いてある事よりも、ずっと辛く苦しいものだった。しかし、彼は、自らの人生を笑いのネタにしました。実話であってもリアルさに欠ける話は、わざと悲惨さを水で薄めてリアルさをだし、面白おかしく話しました。
講演会でも、自分の過去について、おもしろ可笑しく語りました。二人目の母親が父親を包丁で殺そうとしたり、三人目の母親が発狂して死んだことも、四人目の母親が盲目になったことも、「おまえの母ちゃん淫売婦(売春婦)」とからかわれたことも、面白おかしく話し、その上で、オチに「いい話」を持って行っています。しかし、『馬喰一代』には、そういう事は何も書いてません。さすがに母親の数を誤魔化しはしませんが、どの母親も美しく清らかに表現し、父親に対しても愛情を込めて書き込んでいます。
そのため作品が直木賞候補となり、大映で映画されており、大評判となり皇室までも御覧になっています。
ところで、私は、最初にこの『馬喰一代』を漫画で読んでいます。昔、小学館が『小学5年生』という漫画学習雑誌を発行していたのですが、そこの付録に『馬喰一代』の漫画がありました。「走れユキカゼ」という漫画で江波讓二という人が絵を画いてます。
この江波讓二氏は、小学館の漫画雑誌の常連作家で、他にも、ウルトラQ・キャプテンウルトラ・ウルトラセブン・マイティジャック・シルバー仮面・猿の軍団なんかを書いていました。その頃のアシスタントたちは、京都造形芸術大学芸術学部マンガ学科の教授になったり、京都精華大学マンガ学部キャラクターデザインコース教授になったりしています。
まあ、そんなことは、どうでもいいとして、この『馬喰一代』は、小学生の学習漫画雑誌の付録になるほどの名作であったと言うことが重要なポイントです。昭和四十年代のPTAと教育委員会は、すごい堅物の集まりで、ドリフターズなんかのバラエティ番組さえも敵視していましたから、教育上良くないとされるものなんか絶対に小学生の学習漫画雑誌の付録にならなかった。つまり『馬喰一代』は、文芸大作と認識されていたということになる。だから付録になった。
もし、中山正男氏が、脚色なしに真実そのままに『馬喰一代』を書いていたら、映画化もされなかっただろうし、皇室が映画を御覧になることもなかったし、小学生の学習漫画雑誌の付録になることもなかったかもしれません。
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