実は私は、オープン当初から自分の子供が生まれるまで、子連れのお客さんのことをよくわかっていませんでした。だから昔は、家族連れのお客様にちょっと冷たかったかと思います。昔は三歳以上のお子さんの添い寝を禁止していましたし、子供用のスリッパもなかったし、子供用の食器もスプーンもありませんでした。食事に関しては、とりわけは自由にどうぞと言っていましたが、幼児食を作ることはありませんでした。アレルギー対応も真面目にやってなかったです。
ところが、いざ自分の息子が生まれてみると、これではいけないと反省しました。「子育てを知らない無知というのは恐ろしい」と痛感し、反省させられました。と同時にお子さん連れの御客さんにこそ、うちの宿に泊まってもらわないとダメだと思いました。というのは、軽井沢のレストランでは、子供の入店を断る店があったりで、必ずしも子供にやさしい地域ではなかった。
心を入れ替えた私は、積極的に子連れの御客さんを支援することにしました。
まず子供の添い寝に関してですが、四歳でも五歳でも六歳でも、部屋が狭くなるのを覚悟の上であるならばOKしました。今まで断っていたのは、消防法の関連で定員以上を泊めるのは、まずかったからです。幼児の添い寝を無限に許可してしまうと、どうしても定員を超えるお客様を泊める事になります。これが分かったのは、オープン直後に幼児連れの団体様の宿泊をOKして、後日、宿屋の仲間に指摘されたからです。
宿がオープンして間もない頃、十七名の団体さんの貸し切り予約がありました。うちの宿の定員は十七人なので、定員ぴったりです。ところが、ふたをあけてみたら五十四名だった。
大人は、定員ギリギリの十七名だったですが、添い寝の子供達が三十四名もいた。合計すると五十四名。定員が十七人の宿に五十四名のお客さんが宿泊したわけですが、当然のことながら座席が足りない。食器も足りない。トイレ順番待ちで長蛇の列。とんでもない目にあったわけですが、これを近所のペンションオーナーに話したら
「それは消防法違反だろう。定員の三倍の人数を泊めたらまずいよ。万が一それがもとで事故が起きたら、警察やら消防やらマスコミやら何やらで徹底的にバッシングされるよ」
と言われたわけです。
あーなるほどと思った私は、それ以降、添い寝のお客さんに対して厳格に対処するようになりました。一部屋に一名以上の添い寝を禁止。二歳以上の添い寝を禁止。すると、ユースホステル協会の規則に反していると日本ユースホステル協会にクレームが行き、本部から指導がありました。
再び利用しようと思ったファミリーのお客さんからのクレームです。そう言われると仕方がないので、防衛策としてファミリーのお客様をジャンジャン断ることにした。断らないと十七人の宿に五十四名のお客さんが泊まりに来ることもあり得るからです。
どうしてありえるかと言うと、うちの宿は軽井沢おもちゃ王国に最も近くて交通の便利の良い場所にある。しかも宿がオープンした年に、軽井沢おもちゃ王国がオープンしている。なので夏休みになると、子連れのお客様から予約がジャンジャン入ってくる。宣伝しなくても入ってくる。私は、それを片っ端から断っていってた。そして、一人旅ばかり優遇していた。
ところが、いざ自分に息子が生まれてみると、価値観が百八十度かわってしまった。子育てで奮闘している人たちの気持ちが分かってきて、それに感情移入するようになってしまった。しかも、そういう御客さんは、うちの息子の面倒をよくみてくれた。おむつまで変えてもらったことがあった。忙しくて息子にかまってやれないと、代わりに遊んでくれた。普段から子育てしているお母さんたちは、かゆいところに手が届くように、こっそりサポートしてくれていた。
これで目頭が熱くならない宿主はいません。
恩返しをしたいと思った。
また、添い寝にこだわるご両親の気持ちが分かるようになっていた。子供が生まれる前までは、お金を節約したいから、子供の全員添い寝にさせているんだとばかり思っていましたが、いざ実際に自分で子育てしてみると、必ずしもそういうことではないということが分かった。子供の中には、枕が変わると添い寝でないと寝られない子供もいるし、添い寝でもしないと何時までたっても眠らないという子供もいる。自閉症などの障害によって添い寝でないと駄目な子供だっている。私自身のことを例にあげれば、お金の問題ではなく、旅先で子供と一緒に添い寝をしたいという欲求がある。お金の問題じゃないんですよね。現に、人数分のベッド代を払っているにも関わらず、ベッドを使ってないお客さんが何人もいた。
しかし、無限に添い寝を認めたら、定員の倍ぐらいの人数が泊まることになる。そこで頭を悩ました私は、じゃらんnetや、楽天トラベルのプランを操作して、子連れを拒否するプランと、添い寝を無限に認めるブランド両方を使って、両者を調整して、極端な定員オーバーにならないようにしました。
子供用の座席も六席注文しましたが、それでも足りなかったので、子供用の座布団を十個注文しました。なのでうちの宿には、子供椅子が七つ。子供用座布団が十個あります。十七人分の幼児椅子を用意してあります。なので十七人までなら幼児椅子が用意できます。
子供用のスプーン・茶碗・カップも三十人分用意しました。紙コップも大量に置いてあります。絵本を五百冊ほど買い揃え、子供用のDVDソフトもレンタル落ちではありますが五百本ほど買い揃えました。ドラえもんのコミックも百冊ほど用意しました。苦労して造った庭の花壇も全部解体し、何十万もかけて植え込んだ庭木も全て伐採し、そこに滑り台や、ミニハウスや、ブランコなどの屋内遊具を設置。倒れても怪我をしないように、庭に人工芝をひきつめました。こうして宿そのものを軽井沢おもちゃ王国のミニチュア版のように作り変えました。
予備のタオルも、いくらでも使えるように設置し、薬箱を用意し、病院情報なども壁に貼り付けました。トイレのシンクには踏み台を、公共トイレには幼児用便器を、あらゆる場所に消毒薬を設置したのは、今から七年前からです。
こうなると、子連れのお客さんがジャンジャン泊まりに来ます。夏休みになるとあっという間に全てが満室になってしまうようになります。その結果、何が起きたかと言うと、残飯が増えてしまった。
うちの宿は昔から、食事のボリュームが多いので、小さなお子さんは、食事をとらなくてもいいと電話ではアドバイスしてるんですが、楽天トラベルなどの予約サイトから予約が入る場合は、そういうアドバイスを聞く機会がないので、子供さんの分の食事を取ってしまう。もちろん小さな子供が全て食べられるわけもなく、残飯として残ってしまう。宿屋としては、テンションが下がってしまう。
そこで「幼児食は無料で出します」と楽天・じゃらんのプランに書くことにしました。そうすれば、子供の好物と大人の嗜好を分けて作ることができる。一石二鳥ではないかと思ったわけです。なので、幼児食には子供の大好きな、ハンバーグや唐揚げやコロッケをつけることができるし、大人の料理には、子供が嫌う魚料理や小松菜の和え物を出すことができる。
こうして「めでたしめでたし」となったんですが、プランをよく読まないで予約してくる人もいます。二歳の子供に大人の料理をつけて予約してくる人がいる。二歳児が、ほうれん草のおひたしとか、ママカリ(魚)なんか食べるわけも無いので残飯になってしまう。これでは教育上よくないし、もったいないの神様にも申し訳がたたないので、「幼児食ゼロ円」という設定にしてしまい、大人の料理を注文できないようにしてしまおうかな?とも考えている今日この頃です。
つづく。
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