まあそんなことはどうでもいいとして、私は、南極から帰ってきた土屋達郎氏のペンション『ふふはり亭』に泊まったわけですが、その続きを述べたいと思います。
食事が終わってから、一緒に泊まっているお客さんとも仲良くなって、お酒も程よく回っていい感じになってきた時に、宿のマネージャーから
「南極教室はいかがですか?」
と言ってきました。私は待ってましたとリクエストしました。好奇心の強い、うちの息子も興味津々です。というのも去年のクリスマスプレゼントでもらった「しゃべる地球儀」で南極のことを色々と調べていたからです。コンピュータ入りの地球儀のやつは、 南極の人口や気象などいろいろ教えてくれます。
というわけでスクリーンが登場し、パソコンの画面を白いスクリーンに映写して南極教室が始まりました。どんな講義が聴けるんだろうかとワクワクして見ていたんですが、最初は難しい話を全くせずに、南極の昭和基地の内部の写真を次々と見せてくれました。キッチンとか、食料倉庫とか、床屋さんとか、娯楽室とか、仕事部屋とか、ボイラー室とか、発電装置のある部屋とか、物置とか、プライベートルームとか、昭和基地の中のあらゆる場所の写真を見せてくれました。非常に興味深かったです。
面白かったのは、隊員たちの大半がスキンヘッドであることです。おしゃれすることもないし、めんどくさいからといって、最終的にみんなスキンヘッドになってしまうらしいです。もちろん女性隊員もいるんですが、圧倒的に数が少ない。
あと、当然のことながら、南極に床屋さんはいません。皆さんがお互いに髪の毛をカットし合うんですが、 素人が髪の毛を切るわけですから、どういう風な感じになるか、おおよそ見当がつきますね。 それやこれやで、スキンヘッドになってしまう人が続出しているみたいです。
そうそう、南極に行く人たちには、2種類の人たちがいます。夏の間だけ南極に滞在する人たちと、冬も含めて1年間にわたって南極に住みつく人たちです。土屋達郎氏は、1年以上南極に滞在するグループの一人で、この人たちを越冬隊と言います。
この越冬隊には、観測部門と設営部門の二つの部門があります。越冬隊の使命は、南極の自然を観察することなんですが、その観測隊を支援するために存在してるのが設営部門です。で、観測部門のメンバーが14人。この14人の生存を確保するメンバーが18人になります。
つまり18人いなければ、観測隊員の生命を維持することができない。例えば、医者がいないと1年間にわたって南極で健康を維持することができませんし、 料理を作る人がいなくても同じことです。もちろんゴミ処理をする人がいなければ、ゴミも出してません。暖房を維持する人も必要ですし、建物が壊れた時に修繕する人も必要です。電気を継続的に作り出す人も必要ですし、暖房装置などのメンテナンスをする人も必要です。 この他に雪上車とか、様々の車両をメンテナンスする必要もあります。そうなると莫大な数の設営部門が必要ですが、そうも言ってられないので、絞りに絞って18名の設営部隊が選抜されているわけです。
その中の一人が土屋達郎氏で、彼は野外観測支援と言う設営部門です。これは、野外観測をする人たちの生命を保護するための役目で、要するに自然ガイドです。彼がいなければ、南極で自然観測をする有名な科学者たちの命が危険にさらされるわけです。
まあそんなことはどうでもいいとして、面白かったのは、この設営部隊のお話です。設営部隊にはいろんな人たちがいるんですが、その中でも一番面白いのが、調理部隊の人たちの話です。調理部隊の人達は、二人います。二人で交代交代で仕事をするわけですが、この二人のペアが仲が悪かったら仕事にならない。なので非常に気を使うわけです。だから二人のシェフは、大抵同じタイプの料理家にするそうです。
例えばイタリアンのシェフが二人とか、フレンチのシェフが二人とか、和食のシェフが二人とか。もちろんイタリアンのシェフが一人とフレンチのシェフが一人ということもありますが、和食のシェフと洋食のシェフが一緒になることはないそうです。包丁の使い方とか、まな板の使い方とか、盛り付けの方法なんかで、喧嘩になるからだそうです。料理に対する哲学が違うので、両者は相容れないそうで、一年間の間に喧嘩が絶えずにギスギスするそうです。
何か面白いですね。こういう話は、実際に南極で1年間暮らした人 からでないと聞くことができないエピソードです。それだけに、 リアルで迫力のある話です。私も宿屋を始める前にいろんなところの飲食店で働いたことがありますが、その経験からしても、さもありなんと思いました。
もう一つ言うと、飲食店に働いたことのある人間と、全く未経験の人間が一緒にペンションの仕事をするとやはりトラブルが起きます。ソースは私と、北軽井沢のペンション『すこやか』のオーナー夫妻です。うちの嫁さんは、厨房で働いたことが無いので、そのしきたりが分からない。料理界のことがわからないので、経験者である私とトラブルになったりもしました。ようするに料理の世界には、独特のルールがあって、ひとつの世界を構成しているのです。これがトラブルを招く原因になったりする。
もっと面白い話があります。調理部門に唯一、和食でもなくフレンチでもなく中華でもなくイタリアンでもない調理人がいました。 なんと家庭の主婦(40歳代の人)が調理師として参戦した事があった。その人は、 南極から戻った後に『かあちゃん調理隊員になる』という本を出してベストセラーになっている。
この本が非常にも白い。 飲食店に働いたことのある人間と、全く未経験の人間が一緒にペンションの仕事をしてトラブルが起きたペンションオーナー夫妻にとっては非常に面白い。
で、 それが評判となって、それに目を付けたコンビニのローソンが、
『悪魔のおにぎり』
として販売を始めました。いつか北軽井沢のローソンに行って、悪魔のおにぎりを食べてみたいと思っています。いや、もうすでに食べているのかも? そんないわれのある御握りとも知らずして・・・。
つづく。
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