2022年06月19日

山菜とりの人が熊に襲われる理由【4】

 地元民が、業者が、観光客が、知らず知らずツキノワグマを餌付けしている事実を発見してしまった。道路に捨てられているゴミである。夜の8時頃に国道146号線を車で走っていたら大型犬くらいの野生動物がいた。

 子熊だった。

 北軽井沢に引っ越してきて20年になるが、はじめて国道146号線で子熊を目撃した。断っておくが、国道146号線にクマがでたという話は20年間、聞いたことがない。県道235号とか、別の道路なら何回か見かけたことがあるが、国道146号線でクマ。それも子熊をみたのは私が初めてでは無いだろうか?

 問題は、その子熊がコンビニ袋を咥えていたことだ。
「あちゃー、餌付けされている」
と、私は頭をかかえてしまった。ゴミが、どうして餌付けに繋がるのか?

 このへんのところが、理解しにくいと思うので、もうすこし掘り下げて解説します。空き缶やペットボトルのゴミには、何も入ってないことが多いと思います。だから、それがクマに対する餌付けという考えに結びつかない。しかし、多少でもクマを知っていたら、冷や汗が流れるほど恐ろしいことなのだ。

 ツキノワグマ・ヒグマという動物は、本当に不思議な生き物で、ふだんは山菜などの植物を食べていますが、どういうわけか、ある時期(5月下旬から7月)になると、一日中、林道・崖地・河原でウロウロするようになる。そして石をひっくり返しては、ひっくり返した石の裏をペロペロとなめている。まわりに好物の蕗やコゴミやマガリネのタケノコがあっても見向きもしないで、林道のわきにある石を裏返しては、それをペロペロなめている。浅間山山麓には、崖地も多いので、そういうところに出没しては、岩をひっくり返しては石をペロペロなめていたりする。

 そういう光景を浅間山北面(シラ禿げルート)の登山中に何度も私は、みたわけですが、ツキノワグマのやつは、私に気が付いて、こちらを振り向いても、逃げるでも無く、面倒くさそうにそっぽをみて、岩をほじくっている。「人間なんかにかまってられるか」という感じで、何かに熱中している。その何かというのは、蟻・蜂などの昆虫類だ。あの巨体から信じられないことなのだが、小さな小さなアリを一日中食べている。そんなもの食べたって腹の足しになるとは思えないけれど、それでも必死に食べている。それも子連れの母熊が食べている。








 三十年前の知床のルシャでもそうだったけれど、子熊が草原で遊び回っているのを放置して、林道でアリを食べて、番屋の漁師さんたちに怒られて車で追い回されている光景を私は見ている。あたり一面、ヒグマの大好物が茂っていたにもかかわらず、ちっぽけなアリばかり追いかけていた。

 知床の森の中で、クマと鉢合わせしたことがあったが、お互いに気まずそうにして、睨み合い、クマの方から逃げていった。その時、天地が揺れた。地震がおきていた感じだった。しかし、クマが藪の中に消えた瞬間も地震はおさまった。藪の中から、こっちを伺っているようだった。どうしてだろう?と不思議に思っていたが、謎は直ぐに溶けた。私たちが腰掛けていた倒木に、虫たちがたくさんいたのだ。クマは木登りをするのだが、クルミを食べたりする以外に、樹に這いつくばっている虫たちもよく食べる。だから例外なくクマは樹の登りが得意なのである。

 なぜ、それほどまでして、小さなアリを食べることに夢中になるのか? その理由は、よく分かってない。よく分かってないが、アリ・蜂が大好物なことは確かなのだ。

 こうなると、道路脇に捨てられた空き缶が問題となってくる。6月の浅間高原は、アリの大発生時期だからだ。何十年かに一度は、羽アリが大発生して別荘地を襲うことがあるくらいだ。ちょっと油断すると、どの家にもアリの大群が攻めてくる。だから6月になると家のまわりに忌諱剤(石灰の粉)をまくか、基礎のところに白チョークで線をかくのが普通である。そうやってアリを防がないと、どんどん侵入してくる。そのくらいアリが凄いところなのだ。

 そんな場所に缶コーヒーなどの空き缶を投げ捨てたらどうなるか? たちまちアリの大群がやってくる。もちろんクマたちもやってくるわけである。缶ビールも一緒である。というか、アリはビールが大好きなので缶ビールの缶が捨ててあったら、どんどんわいてくる。クマたちももれなく付いてくる。こうして人間たちに餌付けされていくのである。そして、人間界にクマたちが、どんどん接近していき、最悪、射殺されかねない。これはお互いにとって不幸なことです。


つづく。

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2022年06月17日

山菜とりの人が熊に襲われる理由【3】

 熊は藪漕ぎが好きでは無く、開けた平原や林道や登山道を好みます。だから山菜採りの人とかち合うことも多い。あと山菜とりで人が熊に襲われる場合、ほとんどが営林署の林道。林道は車が通らないので熊にとっては自分の庭みたいなもの。子熊と母熊が、林道をはさんで両側にいる場合、そこに人間がきたら危険もいいところ。子熊は二頭生まれるのが普通ですから、合計三頭が広範囲に散らばって山菜を食べている。そこに人間が入ることは非常に危険。





 それからツキノワグマの親子は、二年くらい一緒に行動します。ヒグマは三年。子離れが遅い。つまり二年目の子熊がいる可能性がある。
 見た目が巨大な熊でも、好奇心の高い子熊の可能性であるかもしれない。そうなると巨体の体の子熊が、興味本位で人間に近づいてくる可能性があり、それを見つけた母熊は、激怒して突進してくる。

 どうしてか?

 子熊が喰われると思っているからです。
 子熊の生存率は非常に低い。
 オス熊が殺しに来るからです。
 殺して食べてしまう。
 殺されては敵わないから必死になって防衛する。

 どうしてオスは、子熊を殺しに来るのか?

 オスのツキノワグマが子熊を殺す事例を世界で初めて学術的に確認したのは、熊関係で有名な栃木県の熊仙人こと横田さん。接骨院を経営している横田博さんです。それがNHKのテレビで放送されています。

 この横田さんは、それ以外にも数々の大発見をしています。
 例えば熊剥ぎと言われている行為が何であるかも横田さんの撮影によって原因が分かっています。

 熊剥ぎというのは、ツキノワグマが、カラ松の樹皮を剥いでしまう行為ですが、どうしてツキノワグマが樹皮を剥いでしまうのか長年わかりませんでした。ある研究者は、匂い付けのためではないかと言っていましたが、横田さんの撮影によってそれが違うことが証明されています。横田さんのカメラには、ツキノワグマがカラ松の樹皮を剥いで糖度の高い樹液をペロペロと親子熊が舐めているシーンがバッチリ映っていました。

 それから驚く話に、牛小屋の乳牛の隣に現れたツキノワグマ。なぜ牛小屋に現れたかというと、牛の飼料であるデントコーンを食べに来ていた。しかも頻繁に来ているせいか、牛は熊が来ても暴れなくなり、牛の隣で熊が堂々と寝ていることもあったという。

 しかも熊の足跡は三頭あった。けれど一緒に現れているのではなかった。まずオスがやって来て、牛のエサのコーンを食べる。その間、母親と子供の熊は林の中に潜み、オスがいなくなるのを待っている。オスが子熊を食べてしまうからだ。こういう驚くべき事実を横田さんは、次々と発見していった。

 こうして素人カメラマンの横田博さんが、接骨院をやりながら数々の大発見をしていった。28年間にわたってひたすらツキノワグマを追いかけた素人さんがプロの研究者も成し得なかったことを次々と発見し、学術論文に乗せるわけでもなし、ただひたすらにホームページで情報発信している姿は非常に健気な感じがします。これからも横田さんを個人的に応援していきたいと思っています。





 それはともかくとして、横田博さんが撮影していたツキノワグマの映像に興味深いものがありました。

 それはメスのツキノワグマが、二匹の子熊に授乳しているシーンなのですが、そのシーンが熊に見えなかった。
 人間にしか見えなかった。
 おっぱいを飲んでいる二匹の子熊に対して、そっとナデナデしていた。

 その姿は
「いい子、いい子、いい子だねえ」
と口ずさんでいるように見えた。

 人間のお母さんが、わが子を愛おしく抱きかかえているようにしか見えなかった。私も、いろんな動物の授乳シーンをみているけれど、子供を愛おしい目で見守りながら、そっとナデナデしている光景は、生まれて初めてみた。

 犬でも、鹿でも、猿でも、そっと我が子を手でナデナデしている姿は想像できないが、横田さんが撮影したツキノワグマの授乳シーンは、人間のように子熊に
「いい子だねえ」
とナデナデしていた。

 母熊の声が聞こえてくるようだった。
 私の目には人間の母親に見えてならなかった。
 それほど母性愛が圧倒的だった。
 人間の母親にしか見えなかった。

 猿では、こうはいかない。
 背中が曲がっている。
 しかし熊の背筋は直角にピンと伸びていて、人間と同じ姿勢をとることができる。
 二匹の子熊がおっぱいを飲んでいるのだが、母熊は、両手で抱え込んで、子熊に対してナデナデしつつ目をほそめていた。

 愛あふれるその行為に私は、
「熊は人間そのものだなあ」
と涙ぐみながら思ったわけだが、その思いは次のシーンで裏切られます。


 母熊が、あれほど子熊を大切に育てている親子熊のところに、オス熊が襲いかかってくる。
 子熊を食べるために襲いかかってくる。
 母熊は、必死になって抵抗する。
 命がけで戦うのだが、体格差はいかんともしがたい。
 それでも必死になって子熊を守ろうとする。

 しかしオス熊は、母熊と戦うというより、あくまでも子熊を殺そうと、その一点に全力集中する。
 母熊は、それをブロックせんと必死にもがくが、組み合って二匹とも崖に落ちていく。
 しかし、それはオス熊の作戦だった。母熊が崖を落ちた隙をついてオス熊がダッシュで戻って、子熊を殺してしまうのである。
 その瞬間、母熊は呆然と立ち尽くし、脱力してしまうのだ。

 その時の母熊の悲しそうな姿は涙無しにはみられない。
 きっと母熊は、このような体験を何度もしているに違いない。
 こういうことは、野生動物の間ではよくあることで、ライオンなどの猛獣も普通に子供を殺します。





 長い前置きになりましたが、ここで本題に入ります。
 山菜とりの人が熊に襲われる理由です。
 子熊の生存率が低い理由はすでに述べたとおりです。
 子熊がオス熊に食べられてしまうからです。

 そういう環境下で子育てをしている母熊がいて、そこに山菜採りの人間がノコノコやってきたらどうなるのか?
 母熊にしてみたら子熊のピンチを感じるに違いない。

 母熊は、つねに身構えている。
 子熊の命を守るために必死になっている。
 命がけで我が子を守っている。
 そこに不用意に人間が近づくとどうなるか?

 軽井沢でツキノワグマの保護管理に取り組むNPO法人ピッキオは、2021年9月23日にオスのツキノワグマが子熊を殺す事例を国際熊協会の学会誌「Ursus」に掲載しています。これはピッキオが、出産確認のために冬眠穴前に設置したセンサーカメラに子熊殺しの実際が写っていた。それについての報告ですが、撮影された映像は衝撃的なもので、四時間半にわたるものでした。

 2016年5月6日正午頃、メス熊(ミロク)とオス熊(アクオス)と二時間半にわたって壮絶な死闘を行いました。二時間半も母熊は子熊を守ろうと死にものぐるいで戦った。しかし、16時半頃にオス熊(アクオス)が、子熊をくわえて持ち去っていたことが映像として写っていた。
 戦い始めて4時間半もたっていた。4時間半も戦っても子熊を守れなかったメス熊(ミロク)の無念はいかに?

 子熊を殺されたメス熊(ミロク)は、満身創痍の傷だらけで、8日後の5月14日に冬眠穴から500メートルのところで死体で発見されています。この事例をみても、母熊にとって子育ては命がけであることが分かります。ツキノワグマに限りません。ヒグマにしても、ホッキョクグマにしてもオスの子熊殺しの事例は、数多く報告されています。

 熊に限らずライオンなどの猛獣も普通に子供を殺します。夫婦で協力して子育てするライオンでさえ、自分の遺伝子ではないライオンの子供を殺しまくる。縄張りに、流れ者のオスライオンがやってきて、縄張りのオスライオンが戦いに敗れて死ぬと、流れ者のオスライオンに子供のライオンたちは全て殺されてしまう。

 子供を殺してメスの発情を促し、自分の遺伝子を後世に残そうとする。だから夫を失った雌ライオンは、子供が殺される前に、わが子をつれて旅に出る。群れを離れてしまう。

 子供のライオンを狙うのは、流れ者のオスライオンだけで無い。チーター・ヒョウ・ハイエナ・リカオン・象などもすきあらば殺しに来る。子供を殺してライバルを減らそうとする。自然界には、そういう厳しい掟がある。

 そういう自然界の中で母熊は、ピリピリ生きている。命がけで子育てをしている。そういうピリピリしているところに呑気な人間たちがやってきたらどうなるか? 想像するだけでも恐ろしいと私は思ってしまう。

 一般的に母熊は、子熊を二頭産むので、二頭みかけたら、もう一頭、近くにいると思って間違いありません。その状態が一番危険な時です。母熊がどこかに隠れている可能性が高くて、子熊は無邪気にしている状態です。なので、二頭みかけたら人生最大のピンチだと思って、一刻もはやく立ち去るべきです。間違っても撮影しようとは思わない。子熊は二頭いるのが普通です。母熊を含めて合計三頭が広範囲に散らばって山菜を食べている。そこに人間が山菜採りに入るとどうなるか?

 これが登山客ならまだいい。登山客は、登山道をはみださないし藪の中をウロウロしない。だから母熊も、そっとやりすごすゆとりをもっている。しかし、山菜採りの人間は、そうではない。ウロウロしては子熊に近づいてくる。母熊のストレスはMAXになるに違いない。

 だから安易に春先に山菜採りに行かない方がいい。
 熊たちを刺戟しない方がいいのです。
 母熊が命がけで、子育てしているのですから。
 これは登山者にしても同じで、安易に登山道から離れない方がいいのです。




つづく。

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2022年06月16日

山菜とりの人が熊に襲われる理由【2】

 私は二十年以上前に知床の山中で四十回ちかくヒグマに出会っていますが、熊の習性は地域によってまったく違っていました。斜里町側と羅臼町側では全く違うし、同じ羅臼町でも一山越えると全くキャラクターが違っていた。相泊では鎖で繋いでいる犬が熊に食べられていた。

 しかし、そこから5時間ぐらい歩いていったところの漁師小屋では、犬を放し飼いにしているためか、熊は漁師小屋に近寄らない。その小屋は無人の時に熊が侵入し、ジュースだのお酒だのを食べていてニュースにもなっているにもかかわらず犬を恐れて近寄ってこない。しかも、その犬というのは、チワワに毛の生えたような豆柴犬の雑種。

 面白かったのは、ルシャというところの漁師たちと熊たちの関係。そこにはヒグマが大量にいて、熊たちが林道に入り込むと、漁師たちは車で追いたてる。熊は逃げる。といっても、林道から5メートルぐらい藪の中に入ったら、漁師たちは放置したままです。だから熊たちは、林道に入らないように、一日中、フキを食べています。こうして目と鼻の先で、共に生きているわけです。

 こういうことが可能なのは熊の知能が高いからです。知能が高いゆえに個体によって性格の差がありすぎる。つまり熊に対する対処方法というのは、これといった決め手がない。傘を開くと逃げる熊もいれば、逆に向かってくる熊もいます。火を恐れる熊もいれば、恐れない熊もいる。逆に言うと、その知能指数の高さを、学習能力の高さを利用して、熊に対処することもできるはずです。

 一般的に言って知能の高い動物は臆病。用心深い。だからこちらからサインを出して、相手に用心させれば、相手の方で勝手に消えてくれることが多い。もし出会ったら動かずに、じーっとにらみつける。場合によっては戦う事。絶対に死んだふりをしてはいけない。日本においては死んだふりをして助かった事例はない。たくぎん総研の報告では、鉈で戦ったケースが生還率が高いとある。臆病な動物ですから熊も驚いたのでしょう。





 話は変わりますが三歳以上の日本犬が、あれほど排他的で攻撃的なのは、私たちの祖先が熊に対して対処するために改良した結果だと私は推測しています。熊は臆病ですから、訓練した日本犬を放し飼いにしていれば、熊たちは嫌がって近づかないはずです。

 とは言うものの、今の日本の社会ではそういうことが不可能。そもそも熊は、犬より知能が高く学習能力も倍ぐらいある。訓練されてない犬と熊を競わせたら犬に勝ち目が無い。犬が熊に勝てるとすれば、人間によって訓練された犬しかないわけで、そうでない犬は無能もいいところ。

 ペットの犬を連れて散歩中に野生の熊に出会ったら絶望的です。訓練されてないペットの犬は、飼い主を死においやる可能性がある。ペットの犬は、吠えて熊を挑発したあとに、怖くなったら飼い主の後ろに逃げることが多い。熊は逃げるものを追いかける習性があるので、飼い主の方に突進してくることになり、命が危険にさらされる。訓練した猟犬は、吠えながら熊を飼い主のいるところから熊を遠ざけてくれるし、そのあとに飼い主に戻ってくる。

 そういえば去年の9月頃に小浅間山で二匹のイングリッシュセッターが迷っているのを発見した。連れて帰ろうとしたが、親子だったようで母親が攻撃してくるので連れて帰れなかった。仕方が無いので長野県と群馬県の保健所に連絡したわけだが、すでに失踪届はでており、飼い主さんと連絡が繋がって犬は無事に確保された。その時に保健所の職員が
「犬には帰巣本能がないのですか?」
と聞いてきた。
「ないです」
「ないんですか?」
「イングリッシュセッターは猟犬ですが、訓練をしないかぎり自力で家に帰ることはできません。どんどん迷子になって死を迎えるケースが多いと北軽井沢動物病院の院長さんも言ってます」
「そうなんですか?」

 毎日のように犬を保護している保健所の職員からして、このレベルなので仕方ないことですが、犬は人間に似ていて訓練・学習してないと馬鹿になります。あれほど嗅覚に優れていても、ちょっと離れただけで自宅に帰れなくなる。最初から放し飼いにしていれば、そういう事はないのですが、常に繋がれたままの犬は、野生の熊に太刀打ちできない。

 軽井沢では犬を飼う人が多いために、毎日のように迷い犬を探す情報がネットにでてきます。逃げ出した犬が帰れないで迷っている例がワンサカある。地域住民は、みんな軽井沢SOSという情報サイトに登録しているのですが、そこに毎日のように迷い犬を探している情報があがってきて、とんでもない所で発見されたりしている。

 一番酷いのになると、軽井沢の街中で迷子になった犬が、二週間後に浅間山の頂上でガリガリに痩せた状態で発見されていた。犬を飼っている登山客が驚いて保護したのだが、どうして飼い犬が標高2568メートルの浅間山の頂上にいたのか不思議でならない。距離を考えてもそんなところに迷い込む理由がない。これを考えても犬に帰巣本能が無いことがわかります。

 猟犬が必ず猟師のもとに戻ってくるのは、訓練されたからであって、犬という動物は訓練無しに何かができる動物では無い。人間と一緒で、学習することによって能力を発揮するタイプの動物です。そこが野生のオオカミと違うところ。

 だから熊と犬では、圧倒的に熊の方が頭がいい。逆に言うと人間が訓練してやれば驚くほどの才能をしめすわけだが、あくまでも訓練すればのことであり、普通のペットとして飼われた犬は、野生の熊に対して驚くほど無能で、しばし飼い主を窮地に陥れます。

 犬が大人になるのに一年ぐらいかかりますが、熊が大人になるのに四年もかかる。つまり学習期間が四倍ある。ヒグマの子供は、母熊と三年間も一緒に暮らす。三年間にわたる学習によって熊たちは大人へと成長する。犬の三倍の学習期間をもつわけで、そのうえ犬より二倍以上寿命が長い。つまり犬の倍の経験値をもつ。そのためにマタギたちは、非常に熊を恐れます。下手したら熊は人間よりも頭がいいとマタギたちは思っている。

 実際、熊を飼ってる人たちの話でも、熊は頭がいいと言っている。長野市に宮崎さんと言う人がいて、その人は全国あちこちの動物園から子熊を譲り受けて、最大で十匹という複数同時に熊を育てた人ですが、その人の話によれば、ツキノワグマは、首輪とワラ縄の紐を付けない限り自分の家の敷地から絶対出ようとしなかった。隣地との境界線をしっかり認識していた。だから他所の土地に無断で絶対に入らなかった。で、首輪とワラ縄の紐を持ってきて、お座りして散歩のおねだりをする。

 犬よりも猿よりも頭がいいけれど、宮沢さんが躾けたわけでは無い。相手が勝手に学習してしまったのだ。10匹同時に飼っているから、個別に躾けることなんかできない。一日に10分くらいしか相手してやれない。それでも10匹いるから100分も拘束される。動物王国のムツゴロウさんと違って宮沢さんは、ごく平凡なサラリーマンですから、熊の相手するのにも限界がある。

 にもかかわらず、よく訓練された犬のように無邪気で礼儀正しくなっているのは、ツキノワグマがそれだけ知能が高いからで、この知能の高さと学習能力によって、人間に対して臆病にもなるし、いくらでも凶暴になりえる。


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 油断ならないのは、熊も病気をするということ。知床の事例で記憶しているのですが、人間に突進してくる熊がいて、それを殺して解剖したら末期癌だった。つまり、余命短い熊で激痛に苦しんでいた。激痛ために冷静な判断ができなくなり、用心深さも吹っ飛んでしまって人々に突進してきた可能性がある。そういう事例もある。そういうことも頭の隅に置いておくといい。例外もありえるということが。

 ツキノワグマによる人身事故で一番有名なのは十和利山熊襲撃事件だと思います。これはどういう事件かと言うと、2016年(平成28年)5月20日から6月10日にかけて、秋田県鹿角市の十和利山山麓で発生した事件で、ツキノワグマが山菜採りに来ていた人を襲って四人が死亡、四人が重軽傷を負ったというもので、ツキノワグマにおける最悪の獣害事件で、非常に珍しいケースです。
 で、これと似たケースが、軽井沢でもおきています。やはり5月から6月にかけて山菜とりの人が軽井沢でツキノワグマに襲われています。どうして山菜採りの人が襲われるかというと、熊は、自閉症的に、確保した物や場所を保持しようとします。そこにライバルがやってくると、ライバルを排除する習性があります。

 長野県・秋田県の山菜採りの人は、趣味で自分が食べるために採ってるというより、業者さんのように大量に山菜を採る人たちで、そういう人たちが自分のテリトリーを荒らし回るわけですから、熊たちは怒って排除する。一般的に言って熊は、エサをみつけたら、そこから動かずに食べ続けます。山菜は、食べられる時期というか瞬間が短いですから、それを横取りしようとする奴が現れたら怒るのが当然です。

 また、この時期は、発情期のちょっと前に当たり、オス熊は、体力を蓄えなければなりません。人を襲って大惨事になるのは、このオスの方です。十和利山熊襲撃事件における四人の犠牲者のうち三人を襲ったとみられている熊もオス(84キロ)で、四歳だったといいます。

 あと熊は藪漕ぎが好きでは無く、開けた平原や林道や登山道を好みます。だから山菜採りの人とかち合うことも多い。

 私も鼻曲山で何度も熊に会ってますが、姿を見ることはあまりなく、藪の中にいるのを確認することが多い。私たちが登山道を歩くと、先に気がついた熊が藪に隠れているわけで、藪をミシミシ言わせて大きな黒いものが動いているのがみえたり、藪が動いているのがみえたりする。

 こういう時は、かならず匂いがします。で、私たちが去って行くと、熊も登山道にもどって、食事を再び始める。もし、私が、そこに留まって山菜を採っていたら襲われた可能性があります。


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 それから山菜とりで人が熊に襲われる場合、ほとんどが営林署の林道。営林署の林道は車が通らないので熊にとっては自分の庭みたいなものです。子熊と母熊が、林道をはさんで両側にいる場合、そこに人間がきたら危険もいいところ。

 子熊は二頭生まれるのが普通ですから、合計三頭が広範囲に散らばって山菜を食べている。そこに人間が入ることは非常に危険。

 それからツキノワグマの親子は、二年くらい一緒に行動します。ヒグマは三年。子離れが遅い。つまり二年目の子熊がいる可能性がある。
 見た目が巨大な熊でも、好奇心の高い子熊の可能性であるかもしれない。そうなると巨体の体の子熊が、興味本位で人間に近づいてくる可能性があり、それを見つけた母熊は、激怒して突進してくる。

 どうしてか?

 子熊が喰われると思っているからです。子熊の生存率は非常に低い。オス熊が殺しに来るからです。殺して食べてしまう。殺されては敵わないから必死になって防衛する。

 どうしてオスは、子熊を殺しに来るのか?
 長くなったので、続きは明日に。



つづく。

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2022年06月15日

山菜とりの人が熊に襲われる理由【1】

 私は、宿屋をやってる関係上、毎日のように北軽井沢から軽井沢まで買い出しに行きます。ガソリンが高いので、山道を30分も走って軽井沢まで買い出しに行きたくないのですが、息子が軽井沢で水泳やバスケなどで遊ぶこともあって、高いガソリン代には目をつむっています。というわけで、買い出しは、息子が学校が終わる16時から夜の20時頃に行っています。

 で、夜の20時頃に国道146号線を毎日のように走っているわけですが、どういうわけか? ここ最近、野生動物が目立つことに気が付きました。20年前には絶対に見かけることのなかったニホンザルの親子が、道路の真ん中にいて、とても危険なのです。しかも、そのサルたちは、わざと道の真ん中にいて、車を止めるようにする。危険なので、急ブレーキをかけて止まるのですが、止まるとサルたちが車に近づいてくる。

 あきらかに餌付けされて、
 学習してしまったサルたちだ。
 こういうことは、勘弁してもらいたい。
 絶対に止めてもらいたい。


 サルを餌付けしたら、それがもとで交通事故の大惨事になり、下手したら交通事故で、何人かの人命が失われることになるということが、想像できないのだろうか? 





 これは、ツキノワグマにも言えます。地元民が、業者が、観光客が、知らず知らずツキノワグマを餌付けしている事実を発見してしまった。道路に捨てられているゴミである。実は、軽井沢と嬬恋村と北軽井沢の観光協会の合同で、4月に国道146号のゴミ清掃を行った。

 その時、ものすごい違和感があった。ゴミが、道路から、森の奥深くまで広がっていることである。マナーの悪い観光客といえども、わざわざ森の奥深くまで捨てに行くことは無いし、そもそも危険で一般人が入ることなど不可能であるのだが、現実にゴミは、森の奥深くまで広がっている。

「風で飛ばされたんだよ」

という人もいたが、缶コーヒーの缶が風で100メートルも飛ばされるわけがない。しかも、その缶は古いモノではない。賞味期限前の日付が刻印されていたからだ。それがどうして、森の奥まで運ばれているのだろうか? その疑問が頭から抜けなかった。

 そして、ゴールデンウイークが過ぎ去って、5月の中旬頃に国道146号線を走ってみたら、またゴミが散乱していた。といっても、森の中にゴミは無い。道路のわきにゴミが散らばっている。ここまでは、毎年みられる風景で、個人的にゴミ清掃に行かなければと、なんとなく思いつつ、何日かすぎて、夜の8時頃に国道146号線を車で走っていたら大型犬くらいの野生動物がいた。

 子熊だった。

 北軽井沢に引っ越してきて20年になるが、はじめて国道146号線で子熊を目撃した。断っておくが、国道146号線にクマがでたという話は20年間、聞いたことがない。県道235号とか、別の道路なら何回か見かけたことがあるが、国道146号線でクマ。それも子熊をみたのは私が初めてでは無いだろうか?

 問題は、その子熊がコンビニ袋を咥えていたことだ。
「あちゃー、餌付けされている」
と、私は頭をかかえてしまった。とっさに車のクラクションを思いっきりならして、ライトをハイビームにした。子熊は逃げていった。これが5月中旬。そして、6月初旬にも、国道146号線で子熊をみかけた。ペットボトルを咥えていた。この瞬間、どうして道路脇では無く、森の奥深くにゴミが散乱していたかがわかったような気がした。





 前置きはこのくらいにして本題に入りたいが、
 文章が長くなったので続きは、明日にします。

 

つづく。

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