2009年07月28日

トムラウシ山遭難事故に思う11

トムラウシ山遭難事故に思う11

登山による消費カロリーは?
体重1kgが1分間に消費するカロリーは、0.155(kcal)くらいです。
これに年齢を補正します。

例えば、30代、体重60kgの男が1時間、登山をしたとすると
60(体重)x0.155x60(分)×0.96=535kcal
となります。

6時間の歩行なら
60(体重)x0.155x360(分)×0.96=3214kcal
となります。

ただし、空荷の場合です。
実際は、60キロの人間が、20キロの衣類+荷物
を持ちますから、80キロになったりする。
80(体重)x0.155x360(分))×0.96=4285kcal

では、トムラウシ縦走の場合は、どうだったかと言いますと、午前10時半頃、北沼付近で女性1人が低体温症のため歩行困難となった時、すでに5時間ほど歩いてました。

仮に、この女性の体重を50キロとします。
荷物を10キロ。
ただし、風速25メートルの風が、抵抗となっていました。
この風圧で、荷物が増量したのと同じ状態になります。
風速25メートルの負荷を、プラス20キロ相当の荷物と仮定します。
さらに体感温度の低下が、プラス 5キロ相当の荷物と仮定します。

(というのは、登山道が川になっていて頭から冷雨をかぶっているからです。そのうえ風速25メートルで体感温度が低下を考慮してプラス5キロ相当の荷物の量と仮定します)

何も根拠もない大雑把な計算になりますが、
午前10時半頃、北沼付近での女性の消費カロリーは、

85(体重)x0.155x300(分)×0.8(年齢補正)=3162kcal

となりますね。まあ、この計算には、いろいろ突っ込みどころがありますが、それは御容赦ください。これは、あくまでも、いい加減な仮説ですから。正確な計算は専門家にまかすとして、まあ、そのくらいカロリーの消耗が激しかったということです。

しかし、前日、この女性の摂取カロリーは何カロリーだったでしょうか? もし、ジフィーズしか食べてなかったとしたら、カロリー不足になっている可能性があります。下記のサイトによると

http://shop.syuzanso.com/shopdetail/031003000001/order/

牛丼のジフィーズで97カロリー。これにアルファー米をつけても、300キロカロリーがいいところでしょう。これを3食食べても900キロカロリーです。

 しかし、遭難した一行たちは、前日に、度重なる風雨に曝されながら十数時間かけてヒサゴ沼避難小屋に到着しています。前日、風が吹いてなかったと計算しても、12時間歩行していれば、

60(体重)x0.155x720(分)×0.8=5356kcal

もし、風速25メートルの風で、水浸しの負荷がかかっていたとしたら

85(体重)x0.155x720(分)×0.8=7588kcal

となります。ジフィーズでは、これだけのカロリーを摂取するのは不可能です。つまり、避難小屋を出発する前にカロリー不足にかかっていた可能性がある。

 しかも疲れていると、食欲がでない。
 緊張していると食べたいと思わない。
 ストレスで胃の働きが停止しているから。
 無理して食べてもジフィーズでは限界がある。

 このように、ただでさえカロリー不足だったのに、翌日は、もっとカロリーを消費してしまった。ここが落とし穴ですね。で、気になったことは、この楽々プランの食事です。

55-5-8.jpg

この画像だと、たったの1.5キロ。あきらかにジフィーズです。
山屋がよく使う「尾西食品」です。
私もよく使いましたが、今は、パッケージのデザインが違うんですね。

 それは、ともかくとして、これだけだとカロリー不足は間違いないでしょう。五目御飯で、一食377キロカロリー。倍食べれば、700を超えますが、中高年の人に、倍食べろと言っても難しい。

http://www.onisifoods.co.jp/lineup/alpha01_02.html

 そこで、これを補うために、バーム(蜂蜜)、アミノバイタル、チョコレート、ブドウ糖なんかが必要になってきます。特にチョコレートは、板チョコ一枚が、400キロカロリーぐらいですから、カロリー摂取には優れています。

 あと、アミノバイタルプロ。20年前に、これを使ったときは、
「ドーピング剤なのか?」
と勘違いしたくらいに効き目がありました。これを飲み続けると、筋肉が疲労しにくい。8時間で動けなくなる人が、10時間くらいまで動けるようになる。でも、それをガイドたちが知っていたかどうか? 知っていても使用していても、焼け石に水だったのか?

 悪天候の山でカロリー不足になると命にかかわる。
 気をつけないとね。

つづく。

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posted by マネージャー at 06:56| Comment(7) | TrackBack(0) | 登山関係の話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
前回のコメントには返事まで頂きありがとうございます。 カロリーからの切込み、慧眼だと思いまして再度書き込むことご容赦ください。また、駄文ご容赦ください。 さて私は随分以前ですが利尻で高齢者パーティと同行した事があります。(ガイドやポーターではありません、また日帰り11時間雨混じりの強風でした)その時感じたのは、高齢者の方はスピードに波がなく、持続性に優れますが、ピークパワーにはやはり欠けると言う事でした。正直ペースが合わず、最後は私の方がフラフラで、かといって休息しようとも言えず、内心苦笑したことを覚えております。 その時は上り坂や難場所では私に当然ながら分があり、しかし、一旦下り坂に入れば彼らに分がありました。彼らのペースは休息が少なく、但し、一度の休息時間は長くなりがちでした。 上記はあくまで感覚的なものです。その折は私がパーティに完全に合わせたと言うのもありますが、自分のペースのというものも、また大事なのだと思った次第です。 脱線いたしました、あくまで推論ですが、今回の件では、ガイドは恐らく従来も同じようなプランであれば、今までも強行プランであったはずですから、経験上ピークを越えて下りに持ち込めばあの年代ならではの持続力で何とかなると思ったのかななどと考えてみました。 ところが、カロリー補充が不十分で、風と寒さでガス欠(低体温)となり、そうなった順に倒れたと考えると、得心がいきます。 今回慧眼と申し上げたのは、熱収支から切り込んでいらっしゃる点で、生き残った方と遭難した方の何が生死を分けたのかは単にフリースであった、ではなく、そういった熱収支のバランスを考慮して、経験として積み上げられれば亡くなった方の鎮魂にもなるのかな、と思った次第です。
Posted by Y at 2009年07月28日 08:13
今回の事件の考察、大変興味深く拝見しております。このような極限状態においては、参加者はツアー前まで見知らぬ隣人を助けようなどとは思わなかったでしょう。また、自分に責任が及ぶのを恐れ、参加者は誰も判断はおろか思考まで放棄したのでしょう。

あとから安全な場所でああだこうだと言うのは簡単です。(各位の考察を非難している訳ではありません 大変勉強になります)

しかしその場にいた時に自分なら何ができたか考えてしまいます。私も8歳の息子と山に登るのですが、このような極限状態なら子供を守る為に、自分ならばとても見知らぬ隣人を助ける事など出来ないんじゃないかと。
Posted by 俊にゃん at 2009年07月28日 10:11
確かこのツアーの生存された人の中には、道中に栄養補給をしつつ歩かれた女性がいたはずです。中日新聞だったかの記事にありました。

とにかく何か食べないと体力が持たないと危機感を抱いたのだそうです。

彼女は同行の人にも勧めたそうですが、ほかの方々はそれどころではない心境だったようです。

医師の方の低体温に関する記事です。
http://www5.ocn.ne.jp/~yoshi515/teitaion.html
Posted by ばあば at 2009年07月28日 19:50
科学的な考察に感銘しました。よく登山は科学であると言われてますが、まさに、そのとうりです。
Posted by よしき at 2009年07月28日 21:02
新田次郎氏著「孤高の人」において、加藤文太郎さんは「常に腹が満たされていれば凍死しない」という持論から、ポケットをいつも小魚と甘納豆で満たし、歩きながら食べていたというようなことが書いてありました。
なので僕も真似して山に行くときはにぼしを持って行ってますが、甘納豆は需要がないのか最近手に入りませんね。仕方ないのでチョコレートにしています。
新田次郎さんの小説は、単に読み物としてだけではなく、自分の命を守る勉強にもなりますね。
Posted by わんたろう at 2009年07月28日 22:00
興味深い視点からのお話ありがとうございます。

下のカロリー計算の比較表を見ると、登山はサッカー選手や水泳選手なみのカロリー消費量ですね。
大変な運動量です。

http://hbb.amary-amary.com/calc_ex3.shtml

また、登山中は摂取カロリーより消費カロリーが多いというデータもあります。

http://sport.edu.ibaraki.ac.jp/semi/2006/resume/27yoshinaga.pdf

こうした消費量を上回る摂取カロリーが取れないと本当に死が待っていますね。

まさに起こるべくして起こった事故ですね。
Posted by クリフハンガー at 2009年07月28日 22:44
 トムラウシ遭難に関する詳細な記事を探していましたが、やっと求めているものを読むことができました。

 本格的な山は登りませんが、朝日新聞の本多勝一、武田文男の山岳遭難の記事は好きでした。

 今回、そのようなものは朝日新聞には掲載されそうもなく、週刊誌も期待できない状況で、うれしく思いました。

 
Posted by きたむら玄堂 at 2009年07月29日 00:37
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