昭和8年、ドイツユースホステル運動の躍進に驚いた日本の文部省は、ただちにユースホステル運動を取り入れます。しかし、残念なことに、この年にナチスが選挙で大勝し、政権を手に入れます、そしてドイツユースホステル協会を乗っ取るのです。そして、ドイツユースホステル協会は、ヒットラーユーゲントに吸収合併されます。ここから先は、どの歴史書にも悪口しかかかれてありません。ドイツユースホステル協会は、ヒトラーユーゲントとしてナチスの手先になってしまったと。
ところが、奇妙なことに、そういわれているヒトラーユーゲントも、完全に大人の統制下におかれていないのです。不思議なことに青年に指揮されています。毛沢東や金正日のケースと違っているのです。つまりワンダーフォーゲル運動が発生したドイツの伝統に従っています。
ヒトラーユーゲントで編成された第12SS装甲師団も、ドイツで最も若い師団長のもとで訓練され、将校の大半が若者ばかりでした。しかし、この第12SS装甲師団が、ノルマンディー上陸戦で大活躍し、他の大人たちの部隊が次々と撃破されていくうちで、2ヶ月間も連合軍の攻撃を跳ね返しています。こういう事は、日本ではおきていません。学徒出陣はありましたが、学生たちだけで部隊を編成し、彼らに近い年齢の将校とともに部隊を編成して奮戦したという例はゼロです。全員、大人たちの手下にされて戦場に散っています。
それは、ともかくとして、せっかく日本がドイツユースホステル運動を取り入れようした時に、それがヒトラーユーゲントに変わってしまっていたというのは、日本の不幸でした。ユースホステル運動の本質を知るチャンスを奪われてしまったからです。
ここでおさらいをします。
ドイツでは、ワンダーフォーゲル運動によって、少年たちが旅に出かけました。驚くべき事に少年たちは、自己管理によって最も道徳で模範的な人間でした。そこには非行はありませんでした。しかし、最盛期でも、たったの5万人にすぎませんでした。
ところがリヒャルト・シルマンが、ドイツユースホステル協会を作り、全国にユースホステルを設置しますと、旅する少年の数が、5万人が50万人になりました。しかも大半が貧しい少年たちでした。そして、それはワンダーフォーゲル運動とは違うスタイルの旅になっていました。ユースホステルという施設が出来ることによってワンダーフォーゲルとは違った文化が生まれたのです。
それはどんな文化か?
一言で言うと、融合です。
ユースホステルという箱が出来ると、その箱に多くの種族が集まってきました。リヒャルト・シルマンは、それを拒否しませんでした。大歓迎しました。そのかわりに最低限の規則を作りました。規則を守る限り、どんな種族も差別なく受け入れる。そういうスタイルをリヒャルト・シルマンはとりました。
これは、ヒトラー式ではなく、プロイセン式でした。
ルールを守る限り差別はないというのがプロイセンの伝統でした。
その結果、ドイツの少年たちは、母国にいながら多くの外国人を知る機会を得たし、いろんな世代の大人たちも知り得たし、いろんな身分の人たちと、同じ釜の飯を食い、一緒に歌を歌うことが出来ました。ユースホステルの中に、もう一つの世界(地球)ができあがり、それを体験することができたのです。
これは、ドイツの少年たちだけでなく、各種族の大人たちにとっても、エキサイティングなことでした。というのも、それ以前の世界史には、そういう箱(ユースホステル)はありませんでしたし、そういう文化(ユースホステルを使った国際交流)は無かったからです。しかも、そこは大人たちではなく、少年たちが主役の世界でした。こういう世界は、歴史始まって以来だったのです。だから世界中が、ドイツのユースホステル運動に注目したのです。
しかし、日本は少しばかり遅れて注目してしまった。そのためにユースホステル運動の本質をよく理解できない。しかたなくワンダーフォーゲル運動の方に目を向けてしまった。けれど、ワンダーフォーゲル運動もナチスによって姿を消していたので、ワンダーフォーゲル運動を健康法に位置づけてしまった。登山サークルの一種と取り違えてしまった。ここに戦前のユースホステル運動が早期に消滅してしまった悲劇があります。
そのうえもっと運が悪いことに、ヒトラーユーゲントの来日イベントがあった。
これが日本史を悪い方向にもっていく作用があった。
当時の日本人たちは、ヒトラーユーゲントを誤解した。
統制のとれた団体だと誤解した。
確かに統制はとれていたけれど、
彼らのトップは青少年であることに気がついてなかった。
それに気がつかずに、日本の青少年団も、かくあるべしと思い込んでしまった。
つづく
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