ユースホステルのマネージャーになる前は、なんとなくユースホステル運動の最前線は、ユースホステルであり、ユースホステルのマネージャーが先頭をきって頑張っているのだと思っていました。嬬恋村の観光協会なら、ペンションのマネージャーが中心になって活動しています。だからユースホステル協会も、宿屋の主が中心になって活動しているのかなあと思っていました。
で、2001年に4月。北軽井沢ブルーベリーYGHをオープンして4ヶ月しかたってないにもかかわらず、私が群馬県ユースホステル協会の理事に任命されることで
「そうか、やっぱりな!」
と思って理事会にノコノコでかけていったのですが、出席してみたらまるで違っていた。ユースホステルのマネージャーは私一人でした。その後、谷川岳ラズベリーYHがオープンしたのですが、曽原マネージャーは、なかなか理事にはなれなかった。当時は
「あれ?」
と、不思議でなりませんでした。
「最前線にいる宿主が中心ではないのか?」
と。
しかし、これは私の誤解でした。日本でユースホステル運動が開始した時、その運動の推進者は、宿屋ではなかった。教育関係者や青年団関係者や青少年運動関係者たちが推進した。だからスタート時点でのユースホステルは1軒もなかった。そこでYMCAや日本青年館が、空いている部屋の一部をユースホステルとして貸しただけだった。つまり運動の主体は宿でなかった。
当然のことながらユースホステル運動は、宿泊からスタートしてない。で、どこからスタートしたかというと、行事からスタートしていた。しかも、その行事をバックアップする者がいた。自転車振興会です。日本ユースホステル協会を創設した中山正男氏の親友(清水斉)が、自転車振興会にいたからです。
で、日本ユースホステル協会の立ち上げは、銀座の自転車会館で、日本最初のホステリングは、なんとサイクリングだった。もちろん自転車振興会がスポンサーです。日本ユースホステル協会は、その後、この自転車振興会から多くの援助をうけることになります。自転車(競輪)とユースホステル運動は、切っても切れない関係になります。
それはともかくとして、日本におけるユースホステル運動は、宿(ユースホステル)から始まってないのですね。宿屋のマネージャーが集まって、ユースホステル運動をはじめたわけではない。ここが本家ドイツのユースホステル運動と決定的に違っているところです。
宿がない。
だから行事を行った。
ハイキングやサイクリングを行った。
コーラスやスケッチも行った。
そしてお茶会を行った。
お茶会には、下中弥三郎・大宅壮一・尾崎士郎といった超有名人を集め、その娘たちまで動員しました。そして青少年会員たちと仲良く談笑したわけです。場所は、日本青年館です。で、多くのグループを作ってグループ活動をはじめました。三浦昭夫、栗林貞明、毛利良彰といった人が活躍しました。横山祐吉氏の息子さんである横山岑生氏もグループ活動の中心にいたひとです。彼らが日本ユースホステル運動を作ったのであって宿屋が作ったのではなかった。これは、地方協会でも事情は同じでした。だから群馬県ユースホステル協会の理事会に出てみたら、そこに宿屋は私一人しかいなかったということがおきてくる。
これは日本ユースホステル協会の発達史としては、
とても不幸なスタートだった。
では、どういうところが不幸だったか?
これは常識で考えてもらえば分かるかと思いますが、普通、宿屋というものは、御客さんを増やそうとする。会員を増やそうという発想にはならないのです。会員を増やしても御客さんが増えるとはかぎらない。むしろ減る可能性があります。これは協会側にいると分かりにくい。ユースホステルの利用者にもわかりにくい。しかし、ユースホステルとペンションの二軒を経営すると、すごくよくわかる。具体的に例をあげて解説してみましょう。
例えば、7室24ベッドのペンションを経営したとします。予約受付の電話は、満室でも7本です。チェックインも7回、チェックアウトも7回です。駐車場も7台分あればいい。しかし、7室24ベッドのユースホステルを経営すると、予約受付の電話は24回。チェックインも24回、チェックアウトも24回です。駐車場も24台分必要になる可能性がある。道案内の電話対応も24回になる可能性が出てくる。つまりユースホステルにするとペンションより忙しくなる。人件費のコストがかかるのです。そのうえ会員入会登録作業があったりすると、10人の入会登録があれば、一人5分の時間が割かれたとして50分も拘束される。忙しい合間に煩雑な手続きが必要になり、顧客サービスが低下するのです。
これがペンション客ならば、1室の代表者に連絡すれば、連れの御客さん全員に伝わります。しかし一人旅の御客さんが中心のユースホステルの場合、24名全員に伝えることになることもある。その煩雑さにたまりかねて、入会業務に熱が入らなくなる。入会のための営業よりも、集客に繋がる顧客サービスに力を入れようとする。それが宿屋がとりたくなる行動なのです。だから宿屋に理解が無ければ、入会業務に熱が入らないのです。
(と、文字にしてはみたけれど、これで利用者や協会に熱の入らない理由が伝わるかと言ったら、伝わらない気がする。文字にしても空しいだけ。こればかりは体験しないと分からないでしょうね。逆に言うとユースホステルのマネージャーなら私の言わんとすることは、身に染みてわかると思う。ぶっ倒れる寸前のところでフラフラになりながら作業している人間が、御客さんを減らしてでも入会勧誘しているマネージャーなら分かるのだが、一般人に分かれと言っても絶対に無理でしょうね)
宿屋にユースホステル運動への理解がなければ、会員は増えにくい。
にもかかわらず、日本ユースホステル協会は、
宿屋をぬきにしてスタートを切ってしまった。
これは不幸なスタートでした。
そんな状況の中で横山祐吉氏は、
ユースホステル運動を理解した宿屋を増やすべく縦横無尽の大活躍します。
それは....?
つづく
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あと、私はペンションとユースホステルの2軒をやったので
他のマネージャーより見えてくるところが広くなる。