(取扱い注意−これは平成7年に発行されたもので、現在では中身が古くなっています)
第10章・震災弱者を救いたい!
★震災での犠牲者(死者)は1万人
震災での直接の犠牲者は、5千人だと言われています。しかし、避難所などで生活しているうちに肺炎などにかかり死亡した人が、5千人います。避難所生活は、震災弱者にとってとても生活しにくい場所だったんですね。
例えば、避難所生活した障害者のほとんどが、避難所を追い出されてしまった事実があります。具体的に言えば、避難所となった小学校には、車椅子の使える設備はない。どこに行っても階段だらけ。足の踏む場所もない教室では、視覚障害者は動く事さえままなりません。音に鈍感な聴覚障害者は、「うるさい」と怒られっぱなし。ひどい虐待を受けてしまう知的障害者もいました。
老人たちは、人々から疎外され一気に老け込みました。痴呆症の老人は症状が一挙に進行し、病院に姥捨てをする家族があらわれ、身分証なしでは入院させてくれない病院が出てきました。その上、ホームヘルパーが激減し、体の衰弱の激しい老人が、バタバタと死んでいきました。
なんだか悲しくなりますね。困った時こそ、人を助けたいじゃないですか。助けると言ったって、相手のことを、ほんの少しだけ理解してあげればよいのです。
★視覚障害者
視覚障害者といっても色々あります。全盲の人もいれば、強度の弱視の人もいます。
緑内症の人なんかは、睡眠不足などが重なると眼圧があがり失明してしまうこともあります。そういう人にとって、睡眠をとりにくい避難所生活は、とても危険です。そういう人には、体育館ではなく、できるだけ静かな部屋に入ってもらう必要があります。
最近、首都圏のJRでは車内放送を自粛し、電光掲示版で次の停車駅を知らせる場合が多くなっていますが、これは、聴覚障害者にとって良くても、視覚障害者にとっては不便になります。
あと視覚障害者が杖をなくした場合は、簡単には手に入りません。つまり移動が出来なくなるわけです。また、自分のラジオなんて簡単には手に入らず、情報から遮断されることも考えられます。
ですから、杖を作って差上げて下さい。できれば、ラジオを1台プレゼントして下さい。たったそれだけの事で、どれだけ視覚障害者が救われるかしれません。
また視力障害の人は、自分の感覚で自宅の間取りや通路を覚えて行動しています。震災で、がれきが街にあふれれば、以前のように歩くことはできなくなります。今回の大震災では「覚悟してじっとしていた」という視力障害者が多かったと聞きます。
それから盲導犬に対する理解も必要ですね。「避難所に犬(盲導犬)を連れてくるのは常識はずれだ」と、視覚障害者の人に怒鳴っていた人がいたそうですが、
「盲導犬は、単なるペットではないという事を、誰か代りに説明してほしかった。誰でもいいから味方になってほしかった」
と視覚障害者の人は訴えていました。
目が見えないという事は、想像を絶するほど恐いんです。それが、耳が聞こえない・手足が使えないという障害者と決定的に違うところです。
聴覚障害者や肢体不自由の方が不便と戦っているとしたら、視覚障害者は恐怖と戦っていると言っていいでしょう。ですから健丈者は、不便さを助けるだけではなく、心の支えになってあげてほしい。そんなことを視覚障害者の方がおっしゃっていました。
盲導犬は、『犬』ではないと言います。盲導犬は、しっかりとした教育によって『人間』になっている。京都で震災を体験され、現在神奈川県に在住している寺沢さんは、こんなことを訴えています。
「盲導犬は、かならずしも盲導犬になるとは限らないんです。使用者の心がけによっては、犬に戻ってしまう盲導犬も多いんです」
「はあ」
「教育を受けない人間が、野獣と変わらないのと一緒で、日頃からしっかりした躾を行わない盲導犬は、すぐにただの犬になってしまいます。それこそアッという間です。私たち盲導犬使用者が、@絶対に犬に触らないこと。A絶対に餌を与えないことを、健丈者の皆さんに強く御願いしているのは、盲導犬を、ただの犬にしたくないからです」
「・・・」
「かわいいと犬に触ったり、餌を与ることは、私たち視覚障害者から盲導犬を奪う事になるんです」
「う〜ん」
「盲導犬は、電車や、バスや、レストランや部屋の中など、一般の人の生活空間に入り込みます。これは、人間と同じくらいに厳しい躾を要求されます。衛生にも気をつけなければならないし、臭いや脱毛やトイレにも気をつけなければなりません。盲導犬を飼うという事は、とても大変な事なんです。ただ単に便利な動物を連れて歩いているのとは、訳が違うんです。なのに盲導犬に対する世間の偏見は、まだまだ根強いものがあります」
「でも、そんな大変な盲導犬を、どうして御飼いになってるんですか?」
「積極的になれるんです。便利さから言ったら盲導犬がいようがいまいが、それほど変わらないと思います」
「・・・」
「でも盲導犬が来る前まで、私は家から出ようとしなかった。怖かったから・・・。でも、盲導犬が来てくれてから勇気が出てきました。盲導犬が、私の心の支えになってくれるから」
恐怖と戦っている視覚障害者にとって盲導犬の存在は、とても心強いものです。気を使わなくてもよい人(盲導犬)が、そばにいてくれるだけで、どれだけ視覚障害者が助けられるかしれません。
私たちが視覚障害者を理解するポイントは、視覚障害者は、不便と戦ってるのではなく、恐怖と戦っているんだという認識を持つ必要があります。でないと避難所から盲導犬が追い出されてしまいます。
★聴覚障害者
災害時に聴覚障害者が困る時は、音によってしか情報を伝達出来ない時です。夜に震災が起きた時とか、聴覚障害者が崩れた家の下敷になって身動きできない時とか考えてみて欲しいですね。暗闇の中では、手話などの視覚を通したコミュニケーションは取れません。こういう時は、大声を出すとか、でかい音を出すとか、とにかくこちらの存在を知らせるしかありません。
聴覚障害者には、「大丈夫か?」とか「何処にいるの?」と聞いてみたって、相手には音が聞こえません。けれど、音の聞こえない聴覚障害者にも、音を発することは出来ます。何かを叩いて救援を求めることは出来ます。
逆に言えば、救援を求める言葉は、「助けてくれ!」という正確な日本語とは限らないという事です。「アウアウ」とか分けのわからない言葉を発したり、何か物を叩いて音を出して助けを求める人もいるという事を知ってておいて下さい。
また、聴覚障害者が持っている情報が重要な場合があります。例えば、誰かが家の下敷になっているとか、ボヤが発生しているとかです。こういう場合、相手も必死に貴方に訴えかけているのだから、相手が訳の分からない事をしていると考えずに、必死になってコミニュケーションを取るべきですね。
方法は沢山あります。手話が出来なくても、身振り手振り、筆談、空書、または相手の手のひらや地面に字を書く。聴覚障害者とはいっても、みんなまるっきり聞えないという訳ではないので、口を大きく開け、ゆっくり、明確に話せば、伝わる事も多いです。
避難場所でもコミュニケーションを取る事が大切です。聴覚障害者を孤立させない事です。館内放送が聞こえないために食事の配給を受けられなかったなど、多くの問題点が指摘されています。
相手の立場に、聴覚障害者の立場に立つのは難しい事ですが、これなくしては何も解決しないので、まず相手とコミュニケーションを取るべきですね。
方法は、いっぱいあるのですから。避難所で知り合った聴覚障害者から手話を習うなんて、ちょっと不謹慎かもしれませんが、案外いい結果を生むかもしれませんね。
★肢体不自由
車椅子は、ちょっとした階段はもちろんのこと、かなりゆるやかな坂にも大変な苦労を強いられます。これがもし、阪神大震災のような災害が発生したら、車椅子の人たちは、どうやって生活していけばよいか・・・・。瓦礫の中で火災にみまわれたら、どうやって逃げたらよいのか・・・・。考えてみてもゾッとします。
もし、皆さんが、なんらかの理由によってロープに縛られ、身動き出来なかったとします。その時に、地震が起きて火災が発生したらどうします? 火がすぐそばに回ってきても、身動き出来なかったらどうします? その恐怖を、あなたは想像できますか? 肢体不自由の人たちは、常にそんな恐怖と闘っているのです。
それから意外に知られてない事は、車椅子は絨毯やカーペットにとても弱いことです。健康な人間とって何でもない絨毯が、車椅子を使う人間にとって、やっかいな物である事は覚えておいてほしいものです。絨毯を敷き詰めたホテルや公共施設が、障害者に優しくない施設であることを覚えておいてほしいものです。
★透析を必要としている機能障害者
腎不全などの患者は、3日に一度の透析を行わないと死んでしまいます。しかし、断水のために神戸中の病院では人工透析が出来なくなってしまい、人工透析を必要とする人は死を待つばかりになっていました。実際に25人の死者を出したわけですから、本当に危なかったわけです。
私たちが、透析を必要としている機能障害者にしてあげられるのは、どの病院が透析可能な病院なのかを調べてあげる事です。阪神大震災では、ラジオでの情報が一番正確でした。しんぼう強くラジオを聞いて、情報を次々とチェックしていく事も大切です。
阪神大震災では、透析を必要としている機能障害者たちは、かかりつけの病院からの紹介によって、他の病院に向かったのですが、紹介された病院が時間差で断水となって透析不可能になってしまうという悲劇もおこりました。
★骨髄バンク
皆さんは、骨髄バンクというものを知っていますか? 骨髄バンクとは、自らの骨髄液を登録し、そのパターンが一致する白血病、再生不良性貧血、先天性免疫不全症の人に骨髄液移植をすることによって、それらの病気の人たちの生命を救う御手伝いをする事業です。私たちは、骨髄移植推進財団を取材するうちに、驚くべき事実を知ってしてしまいました。
阪神大震災に日本中の人たちがテレビに釘付けになったわけですが、あの時、民放の全社がコマーシャルを自粛しました。テレビには震災ニュース以外には、政府広報しか流れなかったわけですが、その時、何千件と言う電話が骨髄移植推進財団にかかって来たのです。それは、もうすごい量で、こんなことは財団始まって以来初めての事だったらしいです。
「はい、こちら骨髄移植推進財団ですが」
「骨髄バンクに登録したいのですが」
「それでは資料を送りますから住所をおっしゃってください」
「あの、自宅は倒壊してしまったんです。今、東灘区の避難所にいるんですけれど」
「え?」
「避難所のテレビで、骨髄移植推進財団の政府広報を見たんです。ぜひ骨髄バンクの登録をしたくって・・・」
「だって、あなた、お家がないんでしょ? 食べるのにも困っているんでしょ?」
「でも、命は助かりました」
「そんなこと言ったって」
「大勢の人が死にました。でも、自分の命は助かりました。助かったこの命、役立てたいんです。生死の境目にいる人のために役立てたいんです!」
骨髄移植推進財団に次々とかかってきた電話は、全て阪神大震災で被災された被災者だったそうです。数千名の骨髄バンク登録希望の電話の主が、全て被災者だったというのです。「まさか?」と首を傾げる私に、骨髄移植推進財団の人たちは、静かに答えてくれました。
「信じられないでしょう? でも、これは大げさな話ではないんですよ。電話をとる私たちも、信じられなかったくらいですから無理ないですけど、それこそ何千本という電話が神戸の被災地からかかってきたんです。しかも、食うや食わずの避難所からです」
「う〜ん」
「私たちは、骨髄バンクに登録するよりも、被災地で必要とされているボランティアをしたらって言ったんですけれどね。いいえ、ぜひ骨髄バンクに登録して人の命を助けたいと言うんです。自分が生死の境目を生き抜いて、初めて命の尊さを知ったって言うんですよ。これには財団の人間も感動しましてねえ・・・」
「・・・」
「財団の人間も、義援金を募ったり、ボランティアに行ったりしたんですよ。私も多少寄付をさせていただきました。日本もまだまだ捨てたものじゃないですね。こんなに素晴らしい人たちが存在しているんですから」
この話を聞いた時、本当に心を打たれました。人間の価値は極限状況に発揮されるといいます。関東に大震災がきた時、どんな行動がとれるのだろうか? そう思った私は、「骨髄バンクに登録させて下さい」と口走っていました。
★震災弱者とのつきあいかた
人に迷惑をかけない。こういった考え方は、素晴らしいと思いますが、本来人間は迷惑をかけあって生きています。昔、貧しかった頃の日本は、みんなが迷惑をかけあって支えあって生きていきました。
しかし、『人に迷惑をかけない』という考えから、人に迷惑をかるより、迷惑をかけないシステム、つまり福祉施設を作る世の中になったのが現代社会です。そのために私たちは、知らず知らずのうちに迷惑をかけあって生きていることを忘れてしまっています。
だからこそ私たちは、原点に帰って、迷惑をかけあい、支えあっていく気持ちを持たなければならないと思います。震災弱者は、人に迷惑をかけなければ、避難所で生きていくことはできないです。困った時は、どんどん迷惑をかけあえばいい。私は、そう思っています。
つづく
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