2011年05月31日

老人たちの話し 4

老人たちの話し 4

高校3年生の時(1979年11月)、あるテレビドラマを見ました。
私の人生が変わってしまったのは、そのテレビドラマからです。
そのテレビドラマには、素晴らしい曲が流れていました。
英語の曲でした。
日本語にすると、こんな歌詞です。


 大地に日は昇る。
 一日がやってきた。
 頭上には太陽が輝いている。

「けれど、その太陽は、
 どのくらい、そこにいるのだろうか?」

 地平線から日が昇る。
 大地は、日光を食べ尽くす。
 一瞬で食べ尽くす。
 そして太陽は西の方に沈んでいく。



作曲:Yukihide Takekawa
作詞:Yoko Narahashi

The land of the rising sun
Has come to see the day 
The sun is overhead
But how long will this sun stay

The sun rose over the horizon
And the land ate up its rays
It ate too much too fast
And it took on western ways

It's burning bright above
But it's burning up all the land
And the sun will set in time
And rise on a vast new land

The sun is setting on the West
The sun is rising on the East


YouTubeで、その曲を聞いてみてください。



ゴダイゴの曲でした。

「太陽は、いつまでも頭上に無い。
 いつか西に沈んでいく」

この歌詞の本質を一番わかっているのが老人たちかもしれません。
「少年老いやすく、学なりがたし」
とは、よく言ったものなのです。

 それはともかくとして、1979年11月に私は『男たちの旅路/車輪の一歩』というドラマをみました。まだ見たことがない人は、ぜひ見ていただきたいです。私の友人の多くは、私に無理矢理に見させられています。昔は、定期的に上映会をひらいていたからです。

 『男たちの旅路』とは、どんなドラマかと言いますと、過去を背負った特攻隊の生き残り(鶴田浩二)と、チャラチャラした若者(水谷豊)のぶつかり合いのドラマです。特攻隊の生き残り(鶴田浩二)は、戦争を知らない若者が大嫌い。逆に若者(水谷豊)は、特攻隊くずれの高圧的な男(鶴田浩二)に反発する。そういうドラマなのです。





 まあ、そんなことはいいとして、このドラマに感動した私は、上京してすぐに警備会社のアルバイトをはじめました。警備会社には、このドラマにでてくるような吉岡指令補(鶴田浩二)のような人間がいるのではないかと思ったからです。今にして思うと、我ながら、ずいぶん単細胞な頭だなあと思いますが、驚くべき事に、ドラマに出てくるような警備員に、吉岡指令補(鶴田浩二)のような警備員に会うことができました。

 当時、不況でしたから警備会社には、いろんな人たちがいました。会社の重役だった人までいました。40万円の失業保険をもらっていた人もいたんです。しかし、会社が倒産して働き口が無く、警備会社に入ってきた元大企業の重役さんなんかがいたりしました。大工さんとか、元特攻隊員の生き残りとか、いろんな人たちがいました。私は、そういう人たちから、敬礼の仕方や、答礼のしかたを習い、ビル警備のアルバイトをしました。深夜のビルを守る仕事です。

 当然のことながら夜は長いですから、世間話に花が咲きます。まだ世間知らずの18歳だった私は、年輩の警備員さんのお話が面白くて、いろいろな人生のお話を伺いました。もちろん私が、聞き役です。なにせ、私には語る人生が無い。しかし、諸先輩には、まぶしいくらいの人生経験がある。だから、話が面白くてたまらない。だから話を聞いてばかりいました。







 しだいに私は、みんなから可愛がられるようになり、
 居心地のよい職場になってきました。
 ここで一生を暮らすのもいいなと。

 しかし、ある日のこと。
 諸先輩一同が、ズラリとあらわれて私に、こう言いました。

「警備員をやめなさい」
「いい若い者がする仕事では無い」

 これには参った。私は、この警備会社に就職してもいいかなと思ってた矢先だったからです。しかし、私を可愛がってくれた諸先輩達は、真剣に私のことを心配してくれてるようなのです。

「お前は、何かやりたいことはないのか?」
「警備会社に入って、いろんな人生をみたいんです」
「どうして、そう思った?」
「『男たちの旅路』というドラマを見て感動したからです」
「あれは、ドラマだぞ。フィクションだ。作り話に感動してどうなる?」
「でも感動したんです」
「・・・・・」
「・・・・・」
「あのなあ、お前を感動させたのは、警備会社じゃない。山田太一という作家が、考え出した脚本だ」
「山田太一?」
「なんだ、そんなことも知らなかったのか? 日本で最も有名なシナリオライターだよ。この人が作った警備員の話が、大勢の視聴者を感動させたんであって、実際の警備会社は何一つ関わってないんだよ。お前は、警備会社に感動したんでは無くて、山田太一に感動したんだ」
「・・・・・・」
「お前には、将来がある。いい若いもんが、最初から警備員をめざしてはだめだ。もっと可能性にチャレンジしろ。真面目に学校に行って、たかみをめざせ。警備員になるのは会社が倒産してからかも事業に失敗してからで良い」

 特に倒産した製紙会社の元重役だった人が、熱弁をふるって私の警備会社就職に反対しました。私は、この人を尊敬していましたから、その忠告を聞き入れました。そして図書館に行き、山田太一氏の本(脚本)をかたっぱしから読破することにしました。で、読み始めたとたんに体内に電流が走りました。どのドラマも私が大好きだったドラマだったからです。





 当時はインターネットもパソコンもありません。そのうえ私は田舎に住んでましたから、テレビ局は民放が一局しかなかった。テレビを見るにしても、脚本家の名前なんか一々調べはしなかったから、山田太一なんて名前は知らなかった。にもかかわらず、私が好きだったテレビドラマの大半が山田太一さんの作品だった。私は自分でも知らないうちに山田太一ワールドを好んでいたのです。

 特に『高原へいらっしゃい』が好きだった。

 中学2年生の時に見て感動し、将来、自分もホテルマンになりたいと思っていました。中学校の時は、山田太一さんのドラマでホテルマンになりたいと思ったし、高校の時は、山田太一さんのドラマで警備員になりたいと思って上京しました。いまにしてみれば、えらい単細胞な話ですが、結果として私は、ユースホステルのマネージャーになっています。『男たちの旅路』の世界ではなく、『高原へいらっしゃい』の世界を選んだわけです。



つづく

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posted by マネージャー at 22:27| Comment(3) | TrackBack(0) | テーマ別雑感 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
そうでしたか!
マネージャーさんの進む道を照らしてくれたのは、警備員の老先輩方と、山田太一さんのドラマだったんですね。
この先も楽しみです。
Posted by みわぼー at 2011年06月01日 16:40
ここぞというところでの警告がなんともあったかいですね。
目を輝かせて話を聞いていたであろうマネージャーさんの行く先を
案じる気持ちがとっても伝わりました。
今頃みなさん、どうしてるんだろう。。


ゴダイゴの歌、かかっていたんでしょうが全然記憶になかったです。
やっぱりいいです〜。
シンプルなんだけど、じわじわきます。

高原へいらっしゃい、大好きです!
ああいうドラマ、また作らないかな〜
Posted by ささらー at 2011年06月01日 17:22
みわぼーさん
>山田太一さんのドラマだったんですね。
そうです。
それで映像関係の道を進んだのですが、
すぐに辞めて、高原へいらっしゃいの世界に走りました。



ささらーさん
>シンプルなんだけど、じわじわきます。

ゴダイゴのメンバーは、みんな真面目人間だったんですよね。
それが曲ににじみ出ていますね。
「The sun is setting on the West」
は名曲ですね。
「車輪の一歩」の名シーンを思い出してしまう。


Posted by マネージャー at 2011年06月02日 02:25
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