2011年07月04日

武士の家計簿を見た感想+α+α

みわぼーさん

> データによると、その脚本家さんは、
>昭和28年生まれでいらっしゃるそうなので、
>きっと、マネージャーさんよりも、時代劇の流れは
>リアルタイムに体験されているんじゃないかと思うんですけどね…。


結局、歴史を理解してないということではないでしょうか?
時代劇の歴史を理解してないと、変な誤解をする。
読者と一緒になって、一緒に誤解してしまう。
それでは駄目なんですよ。


吉川英治の宮本武蔵が、あれほど大ヒットしたのは、
メロドラマだったからですね。
基本構造は、『君の名は』と全く同じですね。
両思いなのに一緒になれないんだから、モロにメロドラマ。

しかし、読者は、そうは思ってないわけです。
宮本武蔵の求道的な姿に感動したと思っている。
だけど、シナリオライターも、一緒になってそう思っては駄目ですよ。

よくできた文学や映画のテーマには、必ず2つあるんです。
一つは、ダミーのテーマ。
ナウシカだったら、ラストでナウシカが主張する叫び。
ラピュタだったら、ラストでシータがが主張する叫び。
宮本武蔵なら、武蔵がラストで、佐々木小次郎と戦う姿。
でも、これはダミーのテーマですね。
本当のテーマは、そこにない。

御客さんは、そこに感動してない。
ナウシカが、命を捨ててオームの暴走をとめようとするところに感動している。
宮本武蔵が、大好きな、おつうさんと気持ちが一緒になったところに感動している。
ここが分からないシナリオライターには、絶対によい作品を書けません。


で、武士の家計簿ですが、
この原作に『節約』をテーマにドラマを作ったって感動できるわけが無い。
なぜならは、主人公の武士は貧乏では無かった。
年に70石の収入があった。
屋敷もあった。
財産もあった。
なのに、どうして草履取りより小遣いが少なかったか?
ここが、テーマを発見するための重要な切り口なわけです。

つまり、武士とは何であったか?
なぜ、武士になりたい町人が少なかったのか?
どうして、日本には革命が起きなかったのか?
という問いかけができるわけです。

 その問いかけを具体的に映像にするには、登場人物の中に、草履取りの視点が必要だし、農民や町人の視点も必要になってきます。で、そういう視点を書かせたら日本一うまいのが、山手樹一郎さんなんですよ。

 山手樹一郎さんの筆法を具体的に説明すると、こんな感じです。

 ある武士が東海道を旅していると、美人の町人娘が、ずーっと跡をつけてくるのに気がつく。変だなと思いつつ、歩く速度を変えると、美人の町人娘も速度を変えてついてくる。で、美人の町人娘を待ち伏せて、わけを聞いてみると、誰かに追われているので、失礼と知りつつも、頼りになりそうな、お侍さんの近くを歩かせてもらった。と、言います。そこで、武士は、こう答えます。

「こいつは弱った」
「やはり、御迷惑でしょうか?」
「いや、迷惑というわけで無いが、おれは算盤サムライなんだ」
「算盤サムライ?」
「だから武芸は、からっきし駄目」
「ええええええええええ?」
「しかし、算盤なら多少の心得はある。よかったら詳しい話を聞かせてもらおうか。剣より算盤の方がたよりになるかもしれないぞ。ハハハハハ!」
「・・・・・・・・・・・」

と、まあ、こんな感じの時代劇を書きまくったのが、山手樹一郎さんです。そして山手樹一郎さんは、残酷なシーンを全く書いてない。映画スティングみたいな話ばかり書いている。桃太郎サムライも、本来は、そういう原作だったんです。もっと軽い話であり、悪役をバッタバッタと切る話では無かった。残酷なシーンが無いのが山手樹一郎さんの作品の特徴でした。

 踊る大捜査線だってそうですよね。
 残酷シーンや、
 シリアスな場面は少なくて、
 主人公がスーパーマンというわけでもない。
 元営業マンのキャラクターで刑事をやっている。






>山手樹一郎さんて、お名前はよく見かけていた記憶があって、


 実は、日本ユースホステル協会をたちあげた横山祐吉氏の親友が山手樹一郎。
 というか、山手樹一郎が、横山祐吉を発見した。
 山手樹一郎は、横山祐吉を作家にした男です。



>ライトノベルって、いつの時代も立場が弱いものなんですね…。

 そうですね。今から見たら吉川英治の宮本武蔵だってライトノベルだと思うんだけれど、当時の人たちは、そうは思ってなかっただろうし、堀辰雄や川端康成だってモロにライトノベルだと思うけれど、ファンは、そうは思ってないだろうな。


>いわゆる、コバルト文庫シリーズからで、先年亡くなられた、
>氷室冴子さんの『なんて素敵にジャパネスク』という作品に出会ってからですから…。


 コバルト文庫シリーズですか。
 懐かしいですね。
 私が中学生の時にできたシリーズです。
 ちなみに昔のコバルト文庫シリーズは凄かった。
 大作家の作品しかなかったんです。
 平岩弓枝・赤川次郎・川上宗薫・佐々木守・富島建夫なんて連中の作品がズラリでした。私も何冊か読んだことがありますが、たいていの作品は、中1時代とか、中1コースといった雑紙に連載されたものが多かったです。

 特筆すべきは、平岩弓枝さんの作品でした。この人の作品は、他の人の作品のレベルを大きく抜いていましたね。読んでいるうちに映像が目に浮かんでくる。しかも、謎解きとサスペンスも微妙に加味されてて、子供の読み物のレベルを超えていました。だから平岩弓枝さんの作品は全て買って読みあさりましたね。





 二十歳すぎて、コバルト文庫シリーズの作家たちは、みんなシナリオライターだったことに気がついて愕然としましたけれど。とくに水前寺清子の「ありがとう」が、平岩弓枝さんの作品だったことや、佐々木守さんが、ウルトラマンを書いた人だと知ったときは驚愕したもんです。昔のシナリオライターは、すごかった。





つづく

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posted by マネージャー at 16:51| Comment(2) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 今回の記事にも返信してしまい、失礼します。

 マネージャーさんの書く、山手樹一郎さんバージョンの『武士の家計簿』の方が、よほどに面白そうです!
 どうせなら、そっちを観たいですねぇ…。

 マネージャーさんの仰るとおり、実際の映画シナリオを書いた方には、シナリオテクニックに関する著作はたくさんあるみたいですが、きっと、そういう歴史については、ご存じないのでしょうね。

 そもそも、ドラマ史というか、過去の優れた映画、ドラマ作品を最近のシナリオライターさんたちは、その歴史を重視した講義ってのは、受けてないのでしょうか?

 とにかく書いて、添削してもらって…ってことなのかな?

 シナリオセンター副所長ってことは、あの新井一先生のお弟子さんでしょうにね…(私の大学時代に受講した、ドラマ演習という、戯曲やシナリオを書く授業のテキスト「シナリオの基礎技術」の著者)。

 やはり、シナリオの講師って、大変失礼ながら、本当に実力ある売れっ子だったら、やらないもんなのでしょうかね。

 …って、我ながら、本当にひどいことを書いているなぁ…。

 ところで、コバルト出身の大家に、赤川次郎さん・佐々木守さん・富島健夫さんがいらしたのは、知っていたのですが(氷室さんのデビュー当初の作品のコバルト文庫一覧でお名前を拝見してました)、川下宗薫さん、平岩弓枝さんも、そうだったとは!

 赤川次郎さんは、私の中学時代には、「吸血鬼はお年頃」シリーズを書いていたのを思い出します。
 その頃は既に、赤川次郎さんは、角川文庫の主力作家でもありましたが。

 ちなみに、「OUT」とか「グロテスク」とか「東京島」とかの桐野夏生さんもペンネームは違っていたようですが、コバルト出身だそうです。

 しかし、どんどん、「武士の家計簿」から話題が離れちゃって申し訳ありません。
Posted by みわぼー at 2011年07月04日 18:46
 書ききれなかったので、も少し失礼します。

 山手樹一郎さんが、日本YH協会と遠からぬ関係の方だったとは!!
 しかも、横山祐吉さんは、作家?
 不勉強にして、横山さんに著作があるとは存じませんでした。
 考えてみれば、下村湖人さんとも親交ある方だし、文学に心得がない人なはずはないですよねぇ…。

 そして、思い出しました。
 なんで、池波正太郎さんのエッセイで、山手樹一郎さんのお名前をお見かけしたか。
 池波さんの方が、後輩ですけれど、山手さんと、池波さんは、同じく、長谷川伸門下だったからです!!
 個人的に、ちょっとスッキリ。

 そういえば、佐々木守さんは、小学生の頃、弟が買っていた「コロコロコミック」という児童向けマンガ雑誌で、「ウルトラ兄弟物語」というマンガの原作を担当されていたので、個人的には馴染みが深いです。
Posted by みわぼー at 2011年07月04日 18:57
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