須崎さんは、ちょっと陰が薄い。
幽霊のように突然、現れて、私たちを驚かす。
「あれ? なんか背後にいるな?」
と思ったら須崎さんなのだ。
何をするのだろう?
と見ていたら、大量のペットボトルに水を汲んでいた。
嬬恋村の水は、湧水なのでセシウムなどが無検出。
それを汲んで帰ろうとするのだが、
1本あるいは2本づつの空のペットボトルを持ってきて、
遠回りに厨房水道蛇口にやってきて水を汲んでいる。
それを何回も何回も繰り返している。
見ていて、能率悪いことこのうえない。
いつまでも、背後に座敷童みたいなのが徘徊されてはかなわんので、私は彼女から空ペットボトルを奪い取り、
「残りの空ペットボトルを全部持ってきて!」
と言って、私が水を次々と入れた。
私がやれば、須崎さんの10分の1の時間もかからない。
そんな須崎さんたちと、喫茶「ゆうゆう」に昼飯を食べに行った。
相変わらず、座席についても黙っている。
何とか彼女にしゃべらせたい。と、思った。
彼女をしゃべらせたら、何か勝ったような気がするからだ。
単語一つでも言わせれば、勝ったような気がする。
で、私は究極のネタで須崎さんを攻撃した。
「須崎さん、土井君は、なんで前の嫁さんと別れたか知ってる?」
このネタに絶対に食いつくかと思ったら、
もうすでに彼女は、土井君に聞いていた。
まあ、そうだよなあ。
いくら何でも聞くよなあ。
よし、こうなったら次のネタで攻撃してやる!
「須崎さん、実は、君は、もてていたって知ってた?」
「・・・・」
「須崎さん狙いの御客さん、たくさんいたんだよ」
「・・・・」
全く動じなかった。
かなり手強い。
なかなかの強敵である。
彼女をしゃべらすのは、かなり難しい。
つづく。
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