今から30年前の昭和時代に、私が東京の池袋に住んでいた時の話である。どんな病気だったか今となっては思い出せないが、おそらく結膜炎かなにかにかかっていたと思う。眼科に行こうと思ったけれど、電話帳で調べてみたら当時池袋には眼科が2軒あった。A眼科(仮名)と、池袋眼科(実名)である。どちらの眼科がいいのか、正直言って分からなかったので、大家さんに聞いてみたら、絶対A眼科がいいと言う。池袋眼科はヤブ医者だというのである。他にも何人かに聞いてみたら全員が全員、A眼科の方が良いと言っていた。みんな口を揃えて池袋眼科の先生はヤブ医者だという。
しかし、A眼科よりも池袋眼科の方が、何か偉そうな感じがする。池袋駅の前にあって、池袋眼科と言う名前なのだ。よさげな名前ではないか。これがもし仮に渋谷駅の前に渋谷眼科なる病院があったら、何となく入りたくなるのではないだろうか? 新宿駅の前に新宿眼科があったら、他にいくつかの眼科があったとしても、なんとなく新宿眼科に入ってしまうのではないだろうか? 私は、池袋眼科と言う名前に惹かれて、人の忠告を聞かずに、そこを尋ねてみたのである。
しかし行ってみたら驚いた。
そこはメガネ屋だった。
メガネ屋の奥のほうに、繁盛してなさそうな池袋眼科があった。
しかも、患者が誰1人いるような感じがないのである。
なんとなく嫌な予感がした。
私はすぐその池袋眼科に入らずに引き返してしまい、皆がお勧めするA眼科に行ってみた。すると、そこには大勢の患者がぎっしりと並んでいた。
なんとなく安心した。
看護婦さんも大勢いた。
池袋眼科には看護婦さんらしきものはなかったのである。
やはり、みんなが推薦するこの眼科がよかったんだと。
そして先生に言われるままに毎日A眼科に通った。
通院するごとに目を洗って、ベタベタするものの中に入れられた。そういえば小さい頃に、結膜炎か何かになったときに、こんな治療したなぁと懐かしく思った。もちろん目薬ももらっている。それを1日三回めに刺していた。しかしである。毎日A眼科に通ったにもかかわらず、私の目はなかなか治らなかった。1ヶ月もかかっても治らなかった。
それどころか、少しづつ気になることが起きた。なぜか視力検査をさせられた。こんなことが治療に必要なんだろうか?と思ったが、そういうもんなのか?と無理矢理納得した。他にも色々な検査をさせられたのだが、その都度、治療費はかさんでいった。なぜ眼科ごときで、こんな費用がかかるんだろうかと、思ったのだが、素人の自分にはよくわからない。お医者さんに任せるしかないのだ。そして1ヶ月以上かかってしまったが、治る様子は一向に見られなかった。
ある日のことである。私の前に治療していた老婆が、先生に、
「おかげさんで、少しずつ治りかかっているような気がします。とお礼を言っていた」
そしたら、先生は、憮然とした顔で、そんなわけはありません。白内障は前よりも悪化しています。と、機械的に答えていた。その答え方が、女医さんであるにもかかわらず非常に機械的だったので、何か嫌気がさしてきた。そして病院を変えることにした。地元民がヤブ医者だからやめておきなさいと言われた、池袋眼科に行ってみた。
やはり池袋眼科には患者がいなかった。
看護婦さんも1人もいない。
私はなんとなくそわそわしながら、先生に事情を説明した。
先生は、
「ちょっと薬を見せてもらえませんか?」
と言ってきた。その薬を見せると、
「最近流行の抗生物質ですね」
「なぜわかるんですか?」
「薬の容器でわかるんですよ。おそらく体質に合わなかったんでしょう。抗生物質ではない◆◆という別の薬を出しますので、いちにち3回刺してください」
治療はこれだけだった。たったの3分もかかってない。A眼科ではもっといろんなことをしてくれたのだが、非常にそっけない印象である。やはり藪だったのか?と不信感がでてきたのだが、翌日も、池袋眼科に行った。A眼科では毎日通うように言われていたので、池袋眼科でも当然のことながら毎日通うんだと思いこんでいたからである。しかし、行ってみると先生は怪訝な顔をした。
「何かあったんですか?」
「え、毎日通うのではないのですか?」
「いや、昨日差し上げた薬を差すだけでいいんです」
「前の眼科では、毎日通うように言われて、何かの液体で目を洗ったり、何かベタベタするものを目に差し込んだり、いろんな検査をしたりしたんですけれど・・・・」
「ああ」
池袋眼科の先生は笑っていた。そして、目を洗ってくれて、何かベタベタするものを目に差し込んでくれたが、その上で、
「こういうのは気休めなんですよ。あまり意味はありません。3日たっても昨日差し上げた薬に効き目が現れなかったら、もう一回来てください」
そして、1枚の紙切れを差し出した。
「前に渡し忘れたかなぁ。これは私のプロフィールです」
その紙切れをよく読むと、数年前まで虎の門病院の院長をしていたと書いてあった。そして私の目の病は、3日後に完治していた。A眼科で1ヶ月半通っても治らなかったにもかかわらず、たったの3日で治ってしまっていたのである。
この体験は衝撃だった。
池袋眼科に患者さんがいなかったのは、ヤブだったからではなく、患者が毎日通院しなくてもよかったからだ。また3日で治ってしまうからである。どうりで患者さんがいなかったわけだ。治りが早かったら患者はいない。そのうえ余計な治療をしないから混むこともない。また、メガネ屋の奥に密かにあったというのも、看護婦さんがいなかったのも、地元民には、なんとなくヤブ医者に見えたのかもしれない。しかし、私にとっては、池袋眼科の先生は名医なる。なにしろ3日で治してくれたのである。
それにしても、A眼科の先生は、どうして1ヶ月以上も同じような治療を続けたのであろうか? ちなみにインターネットで検索してみたら、池袋眼科はもうなくなっていた。A眼科は、まだ健在のようである。私は苦笑せざるをえない。
つづく。
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けれど、名医は、ひっそりと、そこにいるのかも知れないですね。
A眼科は、毎日通院させるくらいですから、報酬も多いゆえに未だ存続してるのでしょうね(苦笑)
全然違う科であっても、医師会あるいは勉強会や個人的なつながりで詳しく知ってるかもしれません。
口コミはあくまで患者個人の感想ですから参考までに留め、自分の感覚を信じるしかないのかな。
眼科医については、個人経営の地域に根ざした眼鏡屋さんから紹介いただくのもひとつの方法です。
あんみつさん
池袋眼科ですが、インターネットに無いから廃業したのかと思ったのですが、地図検索したら出てきました。ストリートビューで見ることが出来ましたね。そこの元虎ノ門病院長さん曰く、当時は何でもかんでも抗生物質を使うので、人によって効き目が悪いというか、体質に合わないケースがでてきていると聞きました。で、濁点(?)とかいう目薬をもらったらアッという間でした。1日目にして劇的に変化したという感じです。あとの2日は、念のためにやったというくらいに変わりました。だから余計に、思ったわけです。どうして1ヶ月半も同じ治療を続けたのか?と。
以前、これは問題だな〜というヤブ医者に勤務したことがあります。
必要以上に高価な薬を使う、見通しの説明をしない(=わからない、見立てができないから説明もできない)、本来他院へ紹介すべきなのに延々と(漫然と)治療を続ける…等々。
整形外科ってすっかり治るものばかりでなく長年付き合う病気も多いから、親切だとか何か気に入れば患者さんは集まります。高齢化社会、整形外科は繁盛しないことはまずないし。
医者の経歴や実績など患者はなかなかチェックできません。
待合室に専門医とか認定医の証明書を掲示していれば、最低限必要な勉強はしたのかなと思いますが。
件のヤブ医者はそれらもなく、でも繁盛しています。続けているうちに腕を上げてくれていればよいのですが…
以前、喉の調子が悪い時に地元の大病院?(内科でも外科でもある総合病院)
だと薬だけもらって終わり。
しかも、たいして容態変わらず。
その後、地元の耳鼻咽喉科のクリニック行ったら喉に
直接何か薬を塗りつけられましたが、すぐに治りました。
病院は規模だけで選ぶものではないのかも?
と勉強になりました。
マサさん
名医というのは、意外なところにいるんですよね。決して大病院だけにいるわけではないようです。また肩書きも当てにならないことも、最近わかってきました。某総合病院で前に院長先生に当たったことがあったのですが、老齢でパソコンが使いこなせてない上に、みていてあぶなかっしいのです。それを受付や看護師さんも分かっていて、たくみに当たらないようにしてくれていたんですが、何の気まぐれか、私が指名してしまって、ああ・・・・orz。となってしまいました。まさに『orz』状態でしたよ。だから◆◆学会会長とか、△△大学名誉教授という肩書きを信用してはいけませんね。むしろ若い先生の方が、当たりのケースもありますから。40歳から50歳くらいの先生が、一番当たりが多かった気がする。