だから雨乞いをしている農家の皆さんには申し訳ないが、宿屋のマネージャーは、雨を降らないでくれと祈ることが多い。もちろん私も外出する機会が多くなった。天気の良い朝は、愛犬コロを連れて小浅間山や浅間山に登る。そして帰って朝食を食べた後に、息子を連れて浅間牧場を散策する。これもすべて天気が良いおかげである。天気が良いからこそ、私も息子も愛犬コロも運動する機会が持てるのだ。
逆に雨が降ると、散歩ができなくなる。
しかし運動しないわけにはいかない。
そこで息子を図書館に連れて行く。
嬬恋村に図書館はあるのだが、無人図書館である。
無人なので誰もいない。
そもそも、図書館を利用する人を見かけたことがない。
いつ行っても誰もいないのだ。
それどころか、図書館の玄関口に本棚があって、いらなくなった本を持ってくる村民が多い。いらなくなった本なので、欲しい人は自由に持ち帰ることもできる。無料のブックオフみたいなものだ。だけど持ち帰る人はほとんどいない。なので下手したらゴミ捨て場のような場所になりつつあるので、もっぱら私がひとりで持ち帰っている。なぜならば私は本が大好きだからだ。
まぁそんな事はどうでもいい。
息子のことだ。
雨が降ると、散歩ができなくなる。なので息子を図書館に連れて行く。もちろん図書館には誰もいない。だから2歳になったばかりの息子の散歩場所としては、最高の場所でもある。息子は文字を覚えつつあるので、本棚にある平仮名の文字を指さしながら片っ端から読み始めた。そしてぐるぐると歩きまわるのである。歩くのに疲れてくると、また平仮名を指差して叫ぶ。この繰り返しである。これを、普通の図書館でやってしまったら、かなり迷惑なのだが、幸いなことに嬬恋村の図書館はいつも無人なのだ。昔はこの閑散とした図書館が寂しくもあったのだが、今は逆にありがたいと思っているから、皮肉なものだ。
ところで、図書館は軽井沢にもある。軽井沢の図書館は、巨大でいつも活気に溢れている。図書館に通う町民もかなり多い。人口比はそれほど変わらないのに、どうして、利用度がこんなにも違うのだろうか?
ちなみに、 2歳の息子は軽井沢の図書館に行くと、なぜかおとなしくなる。嬬恋の図書館でははしゃぎ回るのだが、他の人がいる軽井沢の図書館では、静かにしてくれるので親としては非常にありがたい。というより、どうして他の人がいると、こんなにおとなしいのだろうか? 誰もいなくて親と息子だけだと、かなりの甘えん坊なのに、他人がいると急におとなしくなる。これも1種の人見知りなのだろうか? 息子は、ちょっと恥ずかしがりやである。
話は変わるが、息子ができると、お客さんの子供も可愛くなってくる。これは非常に不思議な現象だ。 1種の連帯感なんだろうか? 親子連れのお客さんに対して、すごい親近感が湧いてくるのである。そして、意味もなく涙ぐみたくなる瞬間がでてくるのだ。先日も、息子と同級生の娘さんを連れてきたお客さんがいたのだが、その娘さんが喜んでくれる姿を見ると、我が事のように嬉しくなってくる。その上、
「もう帰らない」
「ここにずっといる」
と、お父さんお母さんに訴えてるのが聞こえてくると、今すぐにでも飛び出してその娘さんを抱きしめたくなる気持ちが込み上げてくるから不思議である。こういう事は、以前にはなかった感情だ。いつの間にか、お客さんの息子さんや娘さんに癒されている自分が居ることに気がついた。いや、もっと正確に言うと、親子が喜んでる姿を見ると、こちらが癒されるから不思議である。どうやら人間という生き物は、幸せそうな光景を見ると、ついつい顔がほころんでくる生き物であるらしい。
つづく。
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