真田丸も13話で、第一次上田合戦を放送しましたね。
非常に面白い内容でしたが、やはりフィクションが多いです。
大河ドラマでは、真田軍も被害を受けていたように書かれてありましたが、実際は、被害はほとんど皆無に近いです。記録によれば、徳川軍の死者は千三百です。それに対して真田軍はたったの四十です。この四十という数字は、ほぼゼロと一緒です。
この時代の戦いでは、弓矢や鉄砲なども使われますから、どんな完璧な勝利でも流れ弾が当たって死ぬ人が出てきます。真田軍が二千人だとすれば、流れ弾で死ぬ人は、 四十人ぐらいはいるでしょう。相手が七千人なら、飛び道具を持っている人が千人ぐらいいるので、そのくらいはいて当然です。つまり真田軍は、圧倒的に勝利しているのですよ。
大河ドラマで見るよりも、完璧に勝っているんです。
それは徳川軍の記録にきちんと書いてあります。
みんなおびえきって戦いにならなかったと大久保彦左衛門が書いているんです。
あとドラマでは、真田昌幸が諸葛孔明ばりに、いろいろと小細工をして、徳川軍を退けているように描いていましたが、これもちょっと史実とは違います。
真田軍は、もっと単純に戦って勝っています。
もっとシンプルに勝利してるんです。
それについては、後日、詳しく解説するとして、こういう大河ドラマにありがちな説明不足を、今日は解説をしようと思います。
これは仕方がないことなのかもしれませんが、シナリオライターも、歴史作家も、歴史小説家も、少しばかり見落としてるところがあります。それは我々一般的な日本人が、外交とか戦略に詳しくないというところです。多くの視聴者は、戦略戦術を正式に学んでいないんですよ。だからわかる人にはわかるんですが、わからない人にはまったくわからない。なぜ徳川軍が、あれほど焦って沼田城を北条氏に返さなければいけないかが、このドラマだけではよくわからないんです。
だから、どうしても徳川家康が悪人に見えてしまう。
しかし、徳川家康にしてみたら沼田城は絶対に北条に返さなければいけない場所なんです。そうしないと自分が滅びてしまう可能性がある。それがわからないと、このドラマは、勧善懲悪の予定調和のドラマになってしまう。
そもそもこのドラマのスタートからして、ちょっと不親切なんですよね。いきなり武田勝頼が滅びるところからスタートしているんですが、どうして武田勝頼が滅びるのか書いてないんですよ。それがわからないと、このドラマはわかりにくい。
なのでお節介にも私が説明しますが、
武田勝頼が滅びる直接の原因が沼田城なんです。
武田は沼田城で滅んでるわけです。
これがなければ、武田軍はそう簡単に滅びはしません。
しかし、沼田城の取り扱いで滅んでいるんです。
それと同じ立場に、家康も立たされているんですよ。
そもそも武田信玄のお父さんが甲斐国から追放されたのも、今川と同盟を結んで北条氏を刺激したからです。つまり、武田軍団というのは、北条氏と同盟を結ぶことによって地上最強になり得たわけです。上杉謙信と激闘していた時も、北条氏と同盟を結び、さらには織田徳川と同盟を結んで川中島を戦っています。もちろん織田信長と戦う時も、北条と同盟を結び、上杉とも同盟を結んだ上で、敵を信長軍に絞って戦っているわけです。
武田信玄は絶対に二正面作戦をしていません。
というか、二正面作戦をした段階で武田軍は滅びる運命にある。
だけど信玄のお父さんは、馬鹿だからそれをやった。
それに危機意識をもった家臣たちが、信玄をそそのかして、
信玄のお父さんを甲斐国から追放したんです。
こうして二正面作戦を避けたんです。
それが分からないと小山田信茂(温井洋一)が、
武田勝頼を裏切った理由も分からない。
武田勝頼は、戦闘能力そのものは、武田信玄より勝っていましたが、所詮、それだけの男で、兵法の基本中の基本を全く知らなかったようです。だからあちこちに戦を仕掛けて、二正面作戦をしてしまいました。織田信長や徳川と戦っているにもかかわらず、北条氏をカンカン怒らせてしまい、両方で戦わざるをえなくなります。これには、武田信玄の重臣たちも青ざめたと思います。
北条氏と言うのは、 二百五十万石もある最強の大名です。もちろん織田信長も、それに匹敵する以上の領土を持っています。それに対して、武田勝頼の領土は、たったの七十万石です。もし、本気で織田軍と北条氏が同時に攻めてきたら、いくら武田軍団が強くても全くかなわない事は、戦国武将にとっては常識中の常識なんです。
にもかかわらず、上杉謙信が死んだ後の相続争いで、北条氏を裏切って、上杉景虎ではなく上杉景勝を応援し、しかも北条氏の城である沼田城を奪い取ったわけですから、北条氏が激怒する事は火を見るよりも明らかです。しかも、それの実行者が真田昌幸なわけですから、真田昌幸も武田家を滅亡させるのに手を貸したようなものです。
もし、武田軍が北条氏と徹底的に戦うならば、まずその前に徳川家康や織田信長と同盟を結ぶべきなんですね。しかしそれをせずに、信長や家康をさんざん挑発して戦争を仕掛けたわけですから、武田の重臣たちも
「なんというバカ殿なんだろう」
とあきれ果てて物も言えなかったに違いありません。
そういう意味では、武田勝頼という男は、全く戦略を知らなかったと言って良いと思います。真田昌幸も、内心はやばいと思いつつ、もうどうしようもなかったんでしょうね。だからこそ、岩櫃城に武田勝頼を撤退させる策をうったえたんだと思います。なぜならば、勝頼と上杉景勝は、同盟関係にあるので、上杉側は勝頼を助けないと自分が危ないからです。
前置きが長くなりましたが、
大河ドラマの13話における徳川家康の立場というのは、
この武田勝頼と全く同じ立場なんです。
秀吉がどんどん日本を統一していく中で、このままでは圧倒的な差ができてくるのは時間の問題なんです。つまり、北条氏と戦っている場合ではなくなってきたんです。二正面作戦は絶対に避けないといけないわけです。なにしろ北条氏の領土は二百五十万石です。それに対して家康の領土は百二十万石です。この差は圧倒的なので、絶対に戦えない。
もし北条氏と戦ったら、秀吉との二正面作戦となって、武田勝頼と同じことになってしまいます。だから、何が何でも沼田城を北条氏に渡さなければならない。しかし真田昌幸は、これを拒否して上杉景勝に寝返るわけです。これが原因となって第一次上田合戦が起こるわけです。
徳川家康としては、冷や汗握る瞬間だったと思います。
なにしろ自分が武田勝家と同じ状況に陥ってるからです。
同じ沼田城が原因で自分の滅びかねない。
この辺が分からないと、あのドラマはわかりにくいかもしれません。
では、真田昌幸は、第一次上田合戦をどうやって戦ったか?
ドラマでは、いろいろな策を使って、敵を分断して撃退していることになっていますが、彼はもっとシンプルに戦っています。それについては後日詳しく述べるとして、そもそも真田昌幸は、上田城に籠城する気なんかさらさら無いわけですね。上田城の城下町を使って合戦する気でいるわけです。事実、上田城の戦いで勝利した後も、ずっと地上戦が続いていますから。
では真田軍が、どのように戦ったかというと、真田軍としては非常に伝統的に戦ってるんですね。これは松尾城や戸石城を散策した人ならよく分かると思いますが、真田の城というのは、ずっと一本道なんですよ。敵が長い一本道をどんどん攻めるような形になってます。つまりどんな大軍が来ても、一本道を登りながら戦うしかないんです。 一列縦隊で登るしかないわけですから、大軍が意味をなさないわけです。逆に言うと、守るほうは少数で十分なわけですね。で、防御側が、敵軍に被害を与えつつ、どんどんどんどん後ろのほうに下がっていくのが、彼らの戦い方なんです。
で、上田城というのは、古典的な真田の城を平地に持ってきたような作りになっているんですね。大手門から長い一本道を作っているんですよ。普通城下町というのは、大手門まで一本道というのはありえないんです。ジグザグになったりして、攻めにくくなっている。
しかし上田城は例外で、長い一本道が続いていて、その突き当たりが上田城の大手門あたりなんです。そして、その一本道の両サイドに武家屋敷が並んでいます。それだけでなくて、横郭(よこぐるわ)と呼ばれる小さな城(上田高校と清明小学校あたり)が両サイドにあったりする。ここに多少の武士を隠しておいて、徳川逃げていくときに横から攻撃する手はずになっているのですね。テレビのように民家に隠れていたわけではありませんし、徳川が攻撃してくるときにはじっと沈黙していました。敵が逃げるまで隠れていたんですよ。だから、ドラマの方はフィクションです。
文章が長くなったので、この続きは、半日後にアップします。
ちよっと用事をすませてきます。
そろそろ息子を保育所に迎えに行かなければならないので。
つづく。
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