で、 五歳児検診で、初めて視力検査を行ったわけですが、片眼が1.2。片眼が0.75と言う異常な数値が出て、両眼視の能力に関して精密な検査を行うように指導を受けてしまいました。
真っ青になったのは私です。ユニセフの公式見解で
「両眼視の能力に関する臨界期は〇歳から五歳」
ということを以前脳科学の本で読んで知っていたので、早急に幼稚園を休んで御代田総合記念病院に駆け込みました。
この病院は、軽井沢近辺では最高の眼科医師がいるところで有名な病院です。地元では、眼科に行くなら御代田総合記念病院。御代田病院眼科に草木もなびくよ〜と歌われた病院で、観光協会の仲間たちも、みんなそこの眼科でお世話になっている眼科の聖地のようなところです。そこで、専門の先生に看て貰った結果、
(一)両眼視の能力は、問題ない
(二)タブレットは控える
(三)三十分以上、近くのものを見せない
という指導をうけました。眼科の先生は、最近の小学校の教育に批判的で、小学校の教育にタブレットを導入するなどは、もってのほかだと怒っていました。耳が痛かったです。
実は、うちの息子は、タブレットをやっています。うちは宿屋なので、夏休みの忙しい時に、いろいろ邪魔されるのは非常にキツかったために、ベネッセのチャレンジ1年生のタブレットを買って与えていました。
息子は、三歳位までは、一日中、ひとりでテレビを見てくれていたんですが、 四歳ぐらいになるとテレビを見ることはなくなりました。最初は、どうしてだろうと思ったんですが、すぐに原因がわかりました。親である私や嫁さんが、全くテレビを見なかったからです。
夏の忙しい時にテレビなんか見る暇がないのはもちろんのことですが、そもそも私も嫁さんもテレビを見ません。子供は親の後ろ姿を徹底して真似ますから、親がテレビを見ないのなら、子供が見るわけがありません。
その結果何が起きたかというと、幼稚園の子供たちと、共通の話題がなくなってしまって、ちょっと浮いているようなんです。例えば、昔の男の子なら仮面ライダーやウルトラマンや鉄腕アトムの話題で盛り上がって、ウルトラマンごっこなんかして遊ぶんでしょうが、うちの息子はそういうものを全く見ません。当然のことながら、そういうおもちゃも一切持っていませんし、そういう遊びもしません。その結果、とんでもないことが起きてしまっています。それについては別の機会に述べます。
では、テレビを見ない息子は、何をしたがるかというと、宿の仕事をしたがります。家の掃除をしたがる。ベットメイクをしたがる。食事を作りたがる。食器の片付けをしたがる。パソコンをいじりたがる。みんな親がやってることを真似したがるわけです。
これが忙しい時に、邪魔で邪魔でしょうがない。気が狂いそうになるぐらい邪魔なんですよ。かといってやるなとは言えない。邪魔だからと怒ると、それが息子に深刻な影響を及ぼすことは分かっている。
叱られるというネガティブな情動体験による学習は即座に成立します。これは長い進化の過程で成立した適応で、敵の学習を即座に行なうためです。そうでなければ生存は危うい。敵に会うたびに少しずつ敵に関する学習をしていては、敵に襲われて命を落とす確率が高まるからです。
これはノルアドレナリン系という物質がストレスによって脳内で働くためですが、このノルアドレナリン系は、幼少期で最も強く活動します。幼児であればあるほど強く活動する。つまり息子に
「邪魔だ」
と怒ると、ノルアドレナリン系の即時効果によって、二度と家の掃除も、ベットメイクも、食事も作らなくなる。
そういう例を、あまりにも多く知っている。ユースホステルのオーナーさんや、ペンションなどのオーナーさんたちから、いくらでも聞いている。なので、あまりに強いネガティブな情動体験は、その後の悪影響を考えると、あまりやりたくない。
息子が二歳になる前、客用ソファーに落書きしたことを怒ったら、息子は二度と筆記用具をもたなくなり、それから文字や絵を描かせるのに非常に苦労したことがありました。あまりに強いネガティブ体験は、その後に深刻なダメージを与えるので、やりたくない。
それに子供の過度なストレスを与えることも脳の発達にマイナスであることも分かっている。ラットにストレスを与え続けると脳が五パーセント軽くなるという有名な実験もあります。できたら強く叱るという体験を利用した教育やしつけは、必要最小限にしたい。
なので困った私は、息子にパソコンを持たせようと思いました。息子はテレビを見ませんが、パソコンはやりたがります。親である私たちが、四六時中パソコンを使って予約を確認したり、ホームページを作ったり、ブログやFacebookを書いたり、経理を行ったりしているわけですから、それを見ていた息子は、パソコンやりたがって仕方がない。
といっても、四歳や五歳の息子にパソコンがいじれるわけがありませんから、タブレットを与えることにする。泊まりに来る御客様のお子さんたちの多くが、ベネッセのチャレンジ○年生のタブレットで勉強していたからです。
問題はそのタブレットに幼児用のものがなかったことです。なので小学一年生のものを注文しました。そして息子に与えると大喜びでした。しかも小学一年生の問題を
「簡単だ!」
と次々と答えていました。
実は、それまで息子は、ポピーという幼児用の教材で勉強していたんですが、その幼児用の教材は息子にとっては非常に難しかった。むしろ小学一年生の問題の方が簡単だったのです。息子は、タブレットに夢中になってゲーム感覚で勉強しはじめました。もちろん 三十分以上経つと警告が出ます。それ以上やると目に悪いからです。あとブルーライトの制限もかけられます。ブルーライトは最小限の設定にしてあります。なので画が黄色くなってしまいますが、仕方ありません。
しかも、このタブレットは非常に良くできていて、息子の勉強意欲を想像以上に引き上げます。ゲーム中毒に陥った子供のように息子を夢中にさせます。私や嫁さんが、パソコンに向かって何か仕事をやっていると息子は自分のタブレットで勉強しだす。わからない問題が出てくると、私に質問してきます。私が、それに答えてあげる。そのやりとりによって親子の共同作業が始まりますから、それも息子にとっては楽しかったようです。
しかも、このタブレットは YouTubeとか余計なサイトを見ることができない設定になっている。勉強しか出来ない。親の私は安心しきっていました。その結果、息子は三十分どころか一時間でも二時間でもタブレットに向かい続けました。
これが親にとって都合がよかった。
息子がタブレットに夢中になったおかげで、親はフリーハンドを得られて、この夏の宿の仕事は、かなりはかどった。おまけに息子の学力はどんどん向上していく。普通の勉強と違って、タブレットはゲームのようなスタイルになっているので、遊んでいるうちに自然と勉強ができてしまうわけです。とにかく良いことずくめだと思っていました。まさにタブレットさまさまだなあと思っていた。
ところが五歳児検診で
「目が異常な状態」
と、引っかかったわけです。そしてお医者さんの指導を受けるようになったわけです。
両眼視の能力に関する臨界期は〇歳から五歳ということは、知っていましたから、私は青ざめました。原因は、タブレットにあるらしいということは、医者に指摘される前に想像できていました。どうりで幼児用のタブレット教材がないわけです。両眼視に関する臨界期が、五歳であることを考えたら、そういうものを作れるわけがない。
つづく。
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