「おいおい大丈夫かい?」
「・・・」
「スケート部は大変だぞ」
「どうして?」
「親のサポートが、半端ないから。それに金もかかるし」
「そうだね、スケート靴やレース用のウエア(ワンピース)が高いからね」
「そりゃ、スケート靴が高いのもそうだけれど、北海道に合宿に行ったり、韓国に合宿に行ったり、いくら金があっても足りなくなるから」
「はあ?」
地元民いわく、スケートは、とんでもなく金がかかるという。まさかそんなことはないだろう・・・と、スケート部保護者の会議に出てみたら、息子の通う小学校では、部員が少なすぎて、そういう合宿は今年から廃止になっていたようでした。何十年も続いた夏季合宿が今年から廃止になってしまったとのこと。
どうして?たかが小学校のスケート部ごときにお金がかかるのだろう?と不思議に思っていたのですが、十一月から始まった本格的な練習を見て「なるほどそういうことか」と理解しました。この地区のスケート部は、楽しく滑るという軟弱な部活動ではなく、全国大会を狙う。硬派な部活動だった。
十一月に入ると全国各地で毎週のようにスケートの大会がある。スケート部員たちは、それらの大会に武者修行として、どんどん出場する。交通費もかかれば、大会に勝つためのスケート靴にも金をかける。少しでも風の影響を受けないような高価なワンピースを用意する。もちろんレース前には、スケート靴のは歯を砥石(といし)で研がなければならない。みんな少しでもタイムを縮めようと親子で躍起になって頑張っている。で、親御さんも、若い頃はスケートの選手だったりする。選手でなくても、嬬恋村では子供の頃からスケートで遊んでいったし、そもそも体育の授業がスケートだったりする。
この歳(59歳)までスケートとは全く無縁だった私は、そういうことを全く知らずに息子をスケート部に入れてしまった。で、後からいろいろ驚いてしまった。みんな十一月から二月まで、各地で行われるスケートの大会にどんどん出ていたけれど、息子は全く出てなかった。スケート大会は、たいてい日曜日に行われるけれど、日曜日は宿屋の稼ぎどきです。息子のためにスケートの大会に付き合うことなどとても無理だった。
レース用ワンピース
しかし、吾妻郡の大会と、嬬恋村の大会だけは、なんとか出すことができた。会場が、車で五分の所にあったからです。もちろんお客さんが、ゆっくりチェックアウトしたら私が大会を見学することは難しい。しかし吾妻郡の大会では、たまたまお客様が早くチェックインしてくれたので、ギリギリ息子のレースに間に間に合いました。会場の中に息子を探すのは簡単でした。誰も彼もが、スケートレース専用のワンピースを着ていてほっそりとしている中で、うちの息子だけが、ぶかぶかに綿の入ったジャケットを着ていたからです。いかにも風の抵抗を受けそうな姿をしているのは、うちの息子だけなので一発で分かってしまう。で、レースがスタートすると、スタートダッシュが良かったのか、最初はトップでガンガン走っている。
あれ?
息子のやつはこんなに早かったか?
というくらい速く走っていた。しかし後半になると、徐々に追いつかれて、同着でゴールしたように見えた。結局、0.1秒差で二位だった。悔しがっている息子の姿を見て、私はひたすら申し訳ないなーと思ってしまった。もうちょっと息子のために何かしてあげれば良かったと思った。息子をスケート部に入れた張本人のくせに、保護者として私は、かなり無責任だった。
そもそも息子をスケート部に入れた理由が、尻餅をつかずに人並みに滑ればいいと言う低い志だったので、他の親御さんのように、各地の大会で武者修行させたり、立派な道具を揃えてあげてなかった。
スケートの練習も皆勤させてなかった。どちらかというと空手とキックボクシングを優先させていた。ただ、空手にもキックボクシングにも試合がなかったので、強さを測定できないので、息子にとってゴールが分かりにくかった。
ところがスケートは、タイムを競うので、目標が見えやすい。それだけに0.1秒差でレースで勝てなかったことが悔しかったらしく、もっとスケートの練習をしたいと訴えてきた。次の週には、嬬恋村の大会がある。今度こそ勝ちたいと言ってきた。なので私は勝てるように手助けすることにしました。
とはいうものの、親子でスケートの練習ができるのは前日の土曜日だけ。練習できるのは、たったの一日だけでした。が、何もやらないよりましなので、軽井沢のスケート場で少しでも風の影響を受けないように低姿勢で滑る特訓をさせました。スピードスケートについて何も知らない私には、それ以外のアドバイスができるわけもなく、私はひたすらストップウォッチでタイムを計り続けました。
そしてレース当日。その日もお客様は早めのチェックアウトしてくれたので、なんとかレースに間に合いましたが、到着してみてびっくり。嬬恋村の大会では、一年生と二年生が一緒に競争することになっていた。しかも巨体の二年生たちと。並ぶと息子の頭が、相手の肩にとどくかどうかの圧倒的な体格差。
「相手が二年生じゃ勝つのは難しいなあ」
と思った私は、勝ち負けよりもタイムを縮めることにしようとアドバイス。レース直前には、ぶかぶかのダウンジャケット脱がせて、少しでも風圧の影響を受けないようにしました。結果は二位。さすがに二年生相手に一位はとれなかったけれど、前回よりも十秒近くもタイムが縮まっていた。
これでいい。
順位はともかく、先週の大会より十秒早くゴールしている。
これは大きい。
それにしても、もっと息子のスケートの面倒を見てあげればよかった。もう少し真剣にスケートと取り組んであげるべきだった。もっと大会に出してあげて、武者修行させてあげるんだった。ちなみにスケートシーズンは、二月で終わりです。三月となった今、息子は毎日のようにスキーに出かけています。例のウイルス騒ぎで小学校が閉鎖になってしまったので、この機会にスキーをマスターさせ、いずれスキーの大会に出してあげてもいいかな?と思っています。
つづく。
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