ところが、台風がやってきた。
どの山小屋もキャンセルが続出。
絶対泊まれないと思っていた、 横尾山荘も槍岳山荘も空室が出た。
そこで天気図を確認したら、十日間ぐらいずっと雨になると予想しているサイトばかりだった。もちろん逆の予想をしている天気サイトもあったのですが、 気象庁のサイトは最悪の天気予報を出している。
実はここが重要です。
高齢者の登山家たちは、気象庁のサイトばかり見て 、それを信じる人が多いのです。 特に今回の台風は、北に向かわずに南東に行くと言うおかしな台風だったので、みんな不安がるのも無理はない。そこがつけめだった。去年の台風19号の時もそうだったんですが、上高地で雨の予報が出ても、頂上に行けば晴れているということはよくあります。もちろん眼下は雲海ですが。
あと、今回の台風は、とにかく進路が読みにくい異常な動きをしてるので、ひょっとしたら晴れるのではないかと言う自分なりの予測もありました。シベリア方面に大きな高気圧が張り出していたからです。なので日曜日に横尾山荘の予約。月曜日に槍岳山荘の予約を取りました。
と言っても、我が家も宿屋です。
土曜日には満室になっています。
お客様のチェックアウトは10時ですから、それから出発しなければなりません。お客様の忘れ物がなければいいなーと思ったんですが、やはりありました忘れ物。大急ぎで電話をしたんですが、忘れ物をしたお客さんはなかなか出てくれません。 登録した電話番号でないために用心して出ないお客さんが多いんですよね。せめて留守電機能でもあれば、 伝言を残せるんですが、今回はそれもなし。仕方がないので、玄関のそばにある忘れ物ボックスに入れて出発しました。 もし電話がかかってきたら、 忘れ物ボックスにあるので、 勝手に持って帰って下さいと言うつもりでした。
で、出発したのが10時ぴったり。高速道路をすっ飛ばして、沢渡駐車場に到着したのが12時30分。大急ぎでタクシーを拾って上高地に向かって、上高地のバスターミナルに着いたのが13時。そこから3時間かけて歩いて横尾山荘に到着したのが 16時でした。 18時に着けばラッキーだと思っていたので、順調そのものです。
7歳になると連れて行ってもらう意識は無くなる。
というのは地図が読めるようになるので、自分で位置を確認しないと気が済まない。
なので、幼稚園時代に比べて面倒くさい作業(説明)が必要になる。
天気もピーカンとまでいきませんでしたが、かなり良い天気。天気予報を見てみたら台風のやつは南の方に南下して熱帯低気圧になるといいます。私の予測が当たり、万々歳です。
横尾山荘の部屋。
新型コロナウイルスでも相部屋制度は健在。
これでいいのか?
私は、来年からテント泊を検討したい。
客室は減らして、そこが公共スペースになっていた。
小学生の息子は本を漁って読書。
読んでる本は、登山関係のマンガだった。
そして翌日。
やはり晴天でした。
喜び勇んで横尾山荘を出発したのは6時30分です。
目標は槍ヶ岳 。
初心者だと休憩を入れて、9時間くらいのコースタイムです。現に3年前に4歳になる息子を連れてこのコースを登った時にかかった時間は、9時間でした。6時に出発して、槍ヶ岳山荘に着いたのは15時頃でした。 今年は息子も7歳になったので、 少しばかり息子に期待していて、おやつと食料の一部とアミノウォーターを20 L ザックに入れて担がせていました。なので、3年前よりも、親が持つべき荷物が減って、かなり楽になっています。
息子も、荷物を嫌がるかと思っていたんですが、 逆に荷物を持ちたかってしょうがない。理由は単純で、息子のザックには、普段食べられないような、おやつが大量に入っていて、おやつ係に任命されていたからです。
まあそのうちザックの重さに音を上げて私が担ぐ事になるんだろうなーとは思っていたんですが、いざ歩き始めてみると、とんでもなかった。大人しく私の後ろを歩いていたのは、急登が始まる槍沢ロッジあたりまでで、それからあとは、私たち親子が息子の後ろを、延々と追いかけるばかり。 とにかく登山する速度が速い。
幼稚園に通っている時は、私と息子は毎日のように山に登っていました。幼稚園をジャンジャン欠席して、山にばかり登るために担任の先生からよく怒られたものです。仕方がないので、幼稚園が終わってから、登山していました 。だから、息子の体力については完璧に把握していました。
ところが小学校に通うようになってからは、そういうわけにはいかない。 幼稚園時代と同じように欠席するわけにはいかない。そんなことしたら児童相談所の職員が訪ねてくることになりかねない。だから、息子が小学校に入ってからは、山に登るのは私と嫁さんの二人。息子はあまり山に登ってないので、さぞかし体力が落ちてるだろうなと思っていたんですが、とんでもなかった。落ちてるどころか、ものすごい体力の持ち主になっていた。それが今回の槍ヶ岳登山で、身をもって体験することになってしまったのです。
どうやら私は、ちょっと自惚れていたようです。小学校なんぞに行かせているうちに、息子の体力は落ちてるんじゃないかと勝手に想像していたわけですが、そうではなかった。小学校は小学校で、子供達の体力作りに貢献していたらしいのです。
あと、通わせている空手教室やキックボクシング教室。そして小学校のスケート部の活動によって、知らず知らずのうちに息子の体力がアップしていたのかもしれません。とにかく、これは嬉しい誤算でした。
もちろん悲しい誤算もあります。息子が早く行きすぎるので、登山しながら教えるつもりでいた、 上高地から槍ヶ岳に向かうあいだの植生や地質の講義ができなかったことです。この登山は、近い将来に息子に登山ガイド資格を取らせるための準備勉強のためでもあったからです。ある程度の登山経験がないと登山ガイド資格は取れませんから、そのための槍ヶ岳登山でもありました。
結局、家族全員が槍ヶ岳山荘に到着したのは、12時30分。 横尾山荘から6時間で到着したことになります。途中休憩したり昼食をとっていますから、実質5時間ぐらいで登ったことになるわけですが、 この速度に私は驚いてしまった。というのも、このコースは、二十歳ぐらいの若者の団体を引き連れて何十回と通っているんですが、6時間で到着どころか、槍ヶ岳山荘に到着することもできていません。 大抵は、その手前の殺生ヒュッテで力尽きるか、前日に横尾山荘ではなくて槍沢ロッジまで行って、槍ヶ岳山荘に到着するかのどちらかです。
そうしないと、必ずメンバーの中に高度障害(高山病のようなもの)が起きてしまう。楽しい登山が辛い登山になってしまう。症状としては爪の先が紫になったり、唇の端が青くなったりする。これがでると、早ければ数時間後。遅ければ翌朝に高度障害になる。山医者のいうところの、いわゆる『山酔い』である。酒が入ると、その可能性はもっと高くなる。
だからその症状が出てないか休憩をとりながら、何気ない会話を交わしつつ慎重にひとりひとりを診断して、場合によっては登山計画を変えなければいけないこともある。それを放置したまま、無理やり山を登らせてしまうと、後で必ず後悔することになる。 メンバーが二度と山に登らなくなる。だから団体登山の時は、私がいつも先頭を歩いて、パーティーメンバーの体調を監視しながら山に登っていた。
これも、私の体力はそこそこあったからできた技なんですが、今回はそういうわけにはいかなかった。息子が私を引き離して前進してしまうからである。私も今年で59歳。ただでさえ体力が落ちてる上に、息子の体力がパワーアップされていたために、もうそういうリーダー的な登山は出来なくなった。これも悲しい誤算です。
つづく。
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