ちなみに30年前の利尻島の宿泊費は異常に高くて、夏のシーズンであれば一泊1万円から2万円はしていました。百名山の第1番目の山ですから、百名山を目指す人なら一番最初に登る山です。だから全国の登山家たちが利尻島に集まる傾向があって、そのために宿泊費が高騰していました。
こんな時にありがたいのが、ユースホステルです。今ではちょっと違いますけれど、当時はユースホステルの料金が契約で決められていて、一泊二食で4000円ぐらいで泊まれました。そして利尻島には、利尻グリーンヒルというユースホステルがあったので、当然のことながらそこに宿泊しました。
利尻グリーンヒルユースホステルは、大勢のお客さんでぎっしり詰まっていました。布団をひくと荷物の置き場もない状態。なのでリュックサックなどの大きな荷物は廊下に置くことになります。受付を済まして荷物置いて、食事を済ませミーティングに出ます。
ミーティングでは、利尻登山の案内とか、利尻島一周徒歩旅行の案内と手続きをします。私は利尻登山が目的だったので、登山グループの中に入って打ち合わせをするわけですが、登山グループにも二つのグループがありました。夜間登山をするグループと、早朝登山をするグループです。
夜間登山をするグループは、ユースホステルの布団で寝ずに登山をするグループです。布団に寝ないにもかかわらず、料金はしっかり一泊ぶんを取られます。『そんなバカな』と思う人たちは、朝5時に起きて早朝登山のグループに入ります。
寝ないで登山する?
そんなバカなことあるか!
そう思った私は、皆に「少しでも寝た方がいいよ」と説得したのですが、誰も聞き入れません。ほとんどの人達は寝ないで登るグループに参加する。何しろ往復12時間のコースタイムですから、朝5時に登ったとしても休憩を入れたら宿に到着するのは夜の7時になります。人によっては、船に乗って利尻から去っていく人たちもいますから、夜中の12時に出発したい人の気持ちも分からないではありませんが、夜間登山は、登山家はやりません。危険すぎるのでベテランほどやらない。それを若い人は知らない。
(利尻登山・百名山の中で一番キツい山です)
で、私は、早朝登山のリーダーとなって15人ほど率いて、朝4時に出発して利尻山に登ったわけですが、途中で夜間登山組と合流しました。たっぷりと睡眠をとった私たちが、夜間登山組に追いついてしまった。で、よくみたら夜間登山組の何人かは高度障害にやられている。唇が紫になっていて、爪もどす黒くなっている。そして、3割くらいの人が九合目で撤退していった。
早朝登山組は、全員が頂上まで登りきり、遠くに見える礼文島を眺めました。昨日まで礼文島にいた私は、感慨深い。礼文島では、ただひたすら愛を求めて何連泊もしながら『愛とロマンの8時間コース』を何度も歩く男がいましたが、今日も彼は『愛とロマンの8時間コース』を歩いているのだろうか? そして愛が生まれたのだろうか?と思いつつ利尻山を下山してユースホステルに到着したのが夕方5時頃でした。
で、ユースホステルに到着しても「おかえりなさい」と軽く挨拶されるだけ。日本一キツい利尻山から帰ってもなにごとも無かったように軽くスルーされてしまう。けれど、利尻島一周55キロの道のりを徒歩で回った人が、ユースホステルに到着すると
「完歩組が帰ったぞ!」
という叫びとともに、宿から五十人くらいの人たちが玄関に集まって、ギターを片手に『風来坊』を歌い始める。利尻島一周55キロの道のりを徒歩で回った栄光をスタッフから御客さんまで絶賛する。
(『風来坊』の曲で出迎えてくれた)
この空 どこまで高いのか
青い空 お前と見上げたかった
飛行機雲のかかる空
風来坊 サヨナラがよく似合う
歩き疲れて立ち止まり
振り向き振り向き来たけれど
雲がちぎれ消えるだけ
空は高く 高く
この風どこまで強いのか
北の風 お前と防ぎたかった
ピューピュー体を刺す風
風来坊 うつむきがよく似合う
歩き疲れて立ち止まり
振り向き振り向き来たけれど
背中丸め直すだけ
風は強く 強く
日本一キツい日帰り登山で有名な利尻山登山組には、そういう出迎えは無いのに、利尻島一周55キロを徒歩で回っる完歩組には、盛大な出迎えがある。この差は何だろう?と思った私は、翌日、55キロを徒歩で回る完歩に挑戦しました。
で、利尻島一周55キロの道のりを徒歩であるいてみたら、しんどかった。40キロくらいまでは、普通に歩けるのですが、それをすぎると地獄の三丁目で、足を引きずって歩くようになる。なので身も心もボロボロになってユースホステルにゴール。
するとユースホステルの中から
「完歩組が帰ったぞ!」
と声が上がり、全員が玄関に集まって『風来坊』を合唱する!
それに感動する完歩組のメンバーは、感極まって涙する人もいた。
女の子たちは全員が泣いていた。
(利尻グリーンヒルユースホステル)
この道どこまで遠いのか
恋の道 お前と暮らしたかった
振られ捨てられ気づく道
風来坊 強がりがよく似合う
歩き疲れて立ち止まり
振り向き振り向き来たけれど
瞳熱くうるむだけ
道は遠く 遠く
.
「愛とロマンの8時間コースより感動する」と思った私は、もう一度、完歩をしたいと思いましたが、さすがに2日続けて完歩は難しいと思ったので、リハビリをかねて、次の日は利尻山に登りました。利尻山は、百名山の中で一番キツい山なんですが、地獄の完歩にくらべれば、なんてことはない。リハビリに丁度良い。
それに登山希望者の大半が、素人なので、道を間違えそうになったり、ペース配分を間違えそうになったりで、あぶなかしくて見てられなかったので、荷物持ちついでに、登山ガイドしようと思ったわけです。
で、翌日、2回目の利尻山に登り、次の日に2回目の完歩を達成! 2回目の完歩では、体が慣れていたのか、余裕のよっちゃんでした。しかし、同行者はボロボロになり、足を引きずりながらのゴールで、ユースホステルの玄関に到着すると
「完歩組が帰ったぞ!」
と全員が玄関に集まって『風来坊』を大合唱!
この坂どこまで続くのか
上り坂 お前と歩きたかった
誰でも一度は昇る坂
風来坊 独りがよく似合う
歩き疲れて立ち止まり
振り向き振り向き来たけれど
影が長く伸びるだけ
坂は続く 続く...
坂は続く 続く..
みんな泣いてましたね。みんなの泣き顔をみたら、もう一回完歩したいと思いました。でも、連続しての完歩だと足を壊す可能性があるので、次の日は、リハビリもかねて3回目の利尻登山すると、ユースホステルのスタッフも呆れていました。こうなると、だんだん私も目立ってきて、礼文島で何回も愛とロマンの8時間コースを歩く奴より目立ってくる。そうなると、もっと目立とうという奴も現れて、カニ歩きで24時間かけて完歩する奴がでてきました。
こうなると私も普通の完歩じゃ物足りない。それで3回目の完歩は、延々と歌い続ける歌完歩にしようということになり、ギターを弾けるやつを誘って、ギターとともに、12時間歌い続けて3回目の完歩をゴール。途中で、ギターの弦が切れるけれど、チャリでまわるユースホステルの御客さんに頼んで、弦を買ってきてもらったりした。最後には、声がカラカラになってしまったけれど、『風来坊』の合唱では、ユースホステルの皆と一緒に歌った。
その翌日は、一人行動。
隣のポンモシリ島まで泳いで渡り、
海抜ゼロの沓掛から利尻山五合目までママチャリで足をつかずにゴール!
その翌日は、利尻島を去ることになります。
9月だというのに、ユースホステルも満室つづきだったので、これ以上、長居をしても御迷惑をかけるので、去っていきました。そして(今は無き)塩狩温泉ユースホステルで、疲れを癒やして帰路につきましたが、徒歩旅行の面白さを満喫した旅でした。
つづく。
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