最初に軽井沢を開発したのは雨宮敬二郎です。彼の死後には、野沢源次郎が軽井沢を開発しました。 この二人の開発の後にやってきたのが 堤康次郎です。彼が目をつけたのは中軽井沢の千ヶ滝の辺りです。永井柳太郎の示唆を受けて軽井沢に足を運び星野温泉の背後にある広大な原野に目をつけました。当時28歳だった堤氏は、沓掛村の村長に千ヶ滝文化村計画を訴えて80万ヘクタールに渡る原野山林を一坪五銭で買い、千ヶ滝遊園株式会社を設立し、労働者を大量に採用して山林を倒して道路を敷設し新しい別荘地を造成しました。
切り倒された赤松カラマツの丸太は現地工場で製材し、山荘を40ほど建築。そして発電所を設置し、道路をつくり、本社と製材工場のそばに直営旅館を開業し、社員住宅・下請け工務店・日用雑貨店・肉屋などを招致しています。
土地付き500円別荘は宣伝の効果があって完売し、文学者・政治家・文化人が相次いで入居し、次々と新しい別荘が建てられました。そして児童遊園地・野球場・共同浴場も開設し、木造3階建てのホテルを建設し、別荘地域を巡回する高原バス(現在の西武バス)を運行しました。
しかも添乗員には女性の車掌を採用。しかも、パリのモデルが着るような制服に革のブーツをはかせて車掌をさせたからたまりません。これが大きな話題となってマスコミにとさりあげられ、軽井沢より千ヶ滝という人も現れました。
堤康次郎という人は、賛否両論のある人で、彼を批判する人は多いのですが、彼と懇意にしていた地元のマスコミ人で、彼の悪口を言う人が少ないことをみると、堤康次郎という男は、マスコミの威力を認識していて、よく世話をやいたたようです。彼がよく口にしていたことは、
「私は軽井沢のあがりを持って行ったことはない。全国各地であげた収益は、みんな軽井沢に投資してきた」
ということばです。これは、おそらく事実でしょう。というのも、千ヶ滝の開発が一段落つくと、嬬恋村の鬼押出し園と、鬼押しハイウエイの造成に乗り出したからです。
鬼押出し園は、当時は溶岩の不毛地帯でした。月面のクレーターのように累々たる溶岩に覆われた場所で、一滴の水にもない荒涼たる岩場でした。それを買い取ろうとしたわけですが、まわりの人間は、社長は気が狂ったのではないかと疑いました。群馬県前橋市の担当官もあんな不毛な土地を払い下げ何にご利用ご利用されるのですかと首をかしげました。堤康次郎は
「私は天然記念物として保護していくつもりでございます」
と返答し、役人たちは国有地払い下げの申請を認め、一坪あたり5銭で80万坪という広大な面積を払い下げました。
そして道路工事をはじめたわけですが、これが難渋します。なにしろ当時の鬼押出し園には、水が無い。飲み水が無いと工事もすすまない。当時の鬼押出し園には植物が全くなかったらしく、火星か何かの風景のようだったと言います。地球防衛軍とかいう。映画化されたSF小説でも火星人がやってきて、地球侵略の拠点としたのが鬼押出し園でした。鬼押出し園なら戦車どころか軍隊も行軍できない難所でした。おまけに当時は、浅間山が活発に噴火していたので、1日で一面の草木が枯れてしまうほどの状況でした。
そんななかで堤康次郎自ら現場の指揮をとって、掘削にかかれと号令を発し、鬼押出し溶岩に向かって延々たる道路工事を開始しました。ダンプもショベルカーもなかったので掘削作業は容易ではありませんでした。なんとか完成させても堤康次郎は納得しなかった。砂利道があまりに揺れるので、
「馬鹿もの、これは道路じゃないぞ。これは河原というものだ」
と道路をさらに改良し、やっとのことで有料道路が完成させ、鬼押出し園を世界三大奇勝地とうたい文句を入れて宣伝を開始。当時、あちこちにあった溶岩樹形に、丁寧な立て札を置いて前橋営林署と約束した通り天然記念物の保存を忘れませんでした。こうして鬼押出しという巨大な景観が新しい観光資源となったわけです。
堤康次郎は、その有料道路を万座にまで延長します。嬬恋村の人間は、彼に足を向けて寝れないはずなのですが、嬬恋村は必ずしも西武グループに対して温かかったとはいえなかったようです。
つづく。
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