2021年10月09日

クマについて【5】『子熊物語』

 今まで、ヒグマの恐ろしい話ばかりしてきたが、今回は、ヒグマの可愛らしい話をしたい。


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 その昔、フランス映画に『子熊物語』というのがあった。母を失ったヒグマの子供を別の熊が育てるという映画だったが、
「嘘くせー」
と思ってしまった。当時、熊に関して色々調べていて、かなり詳しいつもりだった私は
「自分が生んだ子供でも無いのに育てるかよ!」
と、その映画を見ながら、映画を作っていたフランスの映画監督を小馬鹿にしていた。しかし、よくよく調べていくと、熊は、血縁の無い孤児を育てるという研究結果があった。北海道の登別のクマ牧場で、そういう事例が報告されていた。


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 登別のクマ牧場の存在は大きい。登別のクマ牧場のおかげで、野生のヒグマが保護されていると言っても過言では無い。もともと登別のクマ牧場は、熊の食肉を目的として作られている。自然を愛する熊愛好家にしてみたら、とんでもない存在であると思われそうだが、登別のクマ牧場のおかげで、ヒグマの密猟が大した儲けにならなくなってしまい、結果として、ヒグマを密猟する人がいなくなってしまっている。間接的に登別のクマ牧場は、野生の熊をたすけているのかもしれない。

 まあ、そんなことは、どうでもいいとして、登別のクマ牧場によって、いままで分からなかったヒグマの生態が解明されている。その中でも衝撃的だったのは、エサを充分に食べられなかったヒグマが、子熊の養育を放棄するという恐るべき事実と、養育を放棄された子熊を血縁の無い別の熊が養育する事実である。

 さて、長い前置きは、このくらいにして、本題に入る。





 これから話すことは、にわかには信じられないかもしれないが実話である。昭和21年。北海道の日高地方に、とある母子家庭が住んでいた。4歳の息子と、その母親だった。終戦直後ということもあって、母親は栄養失調のために失明してしまった。4歳の子供を育てるどころではなくなった。母親は、息子を養子にだした。300ヘクタールも農地をもつ大地主のところへである。そこには、女の子ばかりで、男の子が無かった。そこへ養子にだされた。

 しかし4歳の少年は、新しいお父さん・お母さんになつかなかった。それに腹を立てた養父は、4歳の子供を死ぬほど殴ったりした。しかも、その直ぐ後に男の子が誕生した。養子の少年は、用無しとなって、年齢を1歳誤魔化して、5歳で小学校に入れられてしまい、家業を手伝わされた。馬や牛のエサを運ばされ、羊の放牧をさせられた。動物は、相手が子供だと、小馬鹿にして言うことをきかない。牛や馬に蹴られて
毎日傷だらけになったが、誰も解放してくれなかった。血まみれになって働いても、誰もいたわってくれなかった。

 学校から帰ると、おつかいが待っていた。町の商店からリヤカーで重い荷物を何キロもの距離をはこんだ。買い物は付けで買い。月末に払うシステムだったので、少年は、荷物を運ぶだけの買い物だった。

 学校に行く前には、羊の放牧をした。羊たちは少年の言うことなど聞かないので、引きずり回され倒れ、泥だらけになった。そのまま学校に行くと「汚らしい」とか「親無し子」とからかわれて虐められた。友達は一人も出来なかった。家に帰ると豚小屋や牛舎の掃除。誰も仕事を教えてくれないので、牛の乳を絞れば蹴られ、馬のエサをやれば噛みつかれた。誰も守ってはくれなかった。だから牧場の脇道をのぼり、近くの山に登って海をみた。こっそり抜け出して、遠くに見える海をみることだけが、ささやかな楽しみだった。

 そして小学2年生の春。少年は海をみるために、雪解けの山道を登っていると、子熊をみつけた。可愛い子熊だった。少年は、子熊を抱き上げようとしたら、子熊は逃げていった。少年は追いかけると、突然、母熊が現れて、少年の頭を張り倒した。少年は、ふっとんでしまった。そして気を失ってしまった。

 そして何時間たったろう?

 少年が目覚めると、夕方だった。少年は、ヒグマの巣穴に寝かされていた。母熊は、傷ついた少年の頭をなめていた。やさしそうな目だった。少年の足下には、子熊が寝ていました。母熊は、その子熊と少年をかわるがわるになめました。少年は、この熊の親子に家族の愛情みたいなものを感じてしまった。養父・養母にはない愛情を感じてしまった。そして涙がこぼれてしかたなかった。そして、いつしか寝てしまった。

 翌朝、少年が目覚めて、大急ぎで養父のもとに帰りますと、酷くしかられましたが、熊にやられた傷については、何も聞かれませんでした。そして小学校に登校し、先生に熊の好物を聞くと「リンゴでしょう」とのこと。少年は熊にリンゴをもっていこうと考えます。重いリヤカーで4キロ先にある商店で買い物するのは、少年の役目ですし、買い物はツケで行います。その時にリンゴも買って、熊に持って行ったのです。熊の親子は、リンゴを美味しそうに食べ、少年は、やっと本当の家族をみつけたのです。しかし、ツケでリンゴを買ったことがバレて、少年は死にそうになるくらいに殴られ、そして・・・・。

 以上の話は、『クマに森を返そうよ(沢田俊子)』という本の一節(実話)です。息子が夏休み中に図書館で借りてきた本で、息子は、この本の感想文を書いて宿題として提出しています。

 少年が、ヒグマの巣穴に寝かされて、傷ついた少年の頭をなめていた。
 少年の足下には、子熊が寝ていた。
 母熊は、その子熊と少年をかわるがわるになめていた。

 にわかには信じられない話しですが、登別のクマ牧場の報告を大量に読んでいる私は、実話であると思っている。本当に、ありえると思っている。


 というのも、後天的に学習するヒグマは、個体差が大きく、いろんな性格の個体があるからです。そして、登別のクマ牧場の研究報告からもあるとおり、映画『子熊物語』のような母を失ったヒグマの子供を別の熊が育てるというケースもありえることを考えると、クマに一律に『お仕置き放獣』することが正しいかどうか疑問になってくる。個体差が大きいから、一律の対応に疑問点が出てくる。お仕置きによって、人間を執拗に恨んで攻撃してくるような個体が誕生しないともいえないからだ。

 クマの個性の多様さをなめない方がいい・・・・というのが、動物写真家である宮崎学さんの考えであり、私も同じような感想をもっている。

つづく。

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posted by マネージャー at 00:01| Comment(0) | 自然−動物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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