困っていると、アウトドアライターの人の紹介によって、アウトドアという雑誌の編集長を紹介してもらい、そこで資料を頂いた。その資料というのは、 東京大学のワンゲルの資料だった。非常に貴重なものでした。他にもいろんな大学のワンゲルから資料を頂いたのですが、 東京大学のワンゲルの資料が一番正確で良く出来ていた。
そして1996年に実際に縦走してみると、その資料が東大ワンゲル部の性格をみせていた。どういうことかと言うと、稜線を正確に突進しようとしている。もちろん稜線上には、 ダケカンバやハイマツ帯が邪魔しています。ハイマツ帯と言っても、北アルプスのハイマツ帯とは全く違うもので、 お化けのような巨大なハイマツ帯。それが入り組んでいて進路を阻みます。ゴムのように私達の全身をブロックする。腕や足をゴム(ハイマツ)で引っ張られいる感じです。
普通ならば絶対に前進できないのですが、そこは伝統のあるワンゲル部ということで、少しずつノコギリでハイマツを伐採している。伐採しなければ前進できないから彼らのパーティーは、ノコギリを持っている。で、邪魔なハイマツは、その都度ノコギリで切断している。その切断の後が、登山道のテープの代わりになっている。道しるべになっているわけです。それが地図に【マル切】と書かれてあって、標識がわりになっている。非常に科学的な手段と物量と伝統の積み重ねで縦走を行っている。
となると、知床山脈縦走するには、ノコギリが必要になってくる。
ここで問題にぶち当たります。
ノコギリというのは、ハイマツの枝を切断する以外に使い道がありません。 もし途中で熊に出会った場合、ノコギリでは戦えない。ナタでなくてはいけない。でもナタでは、ハイマツは切断できない。そうなると我々に取れる手段としては、ハイマツ帯を直進するのではなく、遠回りになったとしても迂回するしかない。
前置きはこのぐらいにして本題に入ります。
当時知床山脈に入ると、いくつもの大学のパーティーがいました 。
それらのパーティーは知床沼にテントを張っています。
理由は、そこが最後の水場だからです。
そして夜の8時頃に各テントで一斉に気象通報を聞きます。
今と違って当時はスマホもなければ携帯もありませんので、夜の8時に放送される気象通報の情報によって自分で天気図を書きます。その天気予測によって、知床を縦走するかどうか決めるわけですが、面白いことに各大学ごとに天気図が違っている。つまり予報が違ってきている。
まあそんなことはどうでもいいとして、各大学のパーティーは、お互い作った天気図と天気予報を交換するわけです。そして色々検討した結果、天候悪化のために知床縦走はできないとみんな断念してしまった。今ならスマホであっという間に分かってしまう天気予報も、当時はこのような原始的な方法でやっていた。ちなみに携帯がない時代ですから、みんなアマチュア無線の免許を取っています。万が一の時は、アマチュア無線で救援を呼ぶしかない。
そんなことどうでもいいとして、彼らは全員ノコギリを持っていた。ハイマツ帯を縦走するわけだから、当然といえば当然なのだろうが、当時の私は首をかしげていた。熊が出てきたらどうするんだろうと。 ノコギリでは戦えないではないかと。もちろんみんな熊スプレーは持っていたけれど、犬飼さんや、門崎さんや、姉崎さんのヒグマに関する報告書を読む限り、ナタを持っていかないと言う選択肢はなかった。
当時の統計(たくぎん総研)によれば、ヒグマに襲われた場合、ナタでの反撃が有効だとされていたからだ。その報告に批判的な動物学者も多かったのだが、私は、その統計を信じた。というのも、ある専門家が、とんでもない資料(死んだふりをしたら助かるというカナダの資料)をわたしてきたからだ。それは、たくぎん総研の統計とは真逆だった。私は迷うこと無く、犬飼さんや、門崎さんや、姉崎さんの方を信じた。
結局、ノコギリは必要なかった。
むしろノコギリなってない方が良かった。
なまじノコギリを持っていると、ハイマツ帯を直進したくなる。
しかし実際は遠回りになる。
ハイマツ帯を迂回した方が圧倒的に早い。
一見遠回りに見えてもそっちの方が早いのだ。
そうなると稜線上を縦走したとは言えなくなるかもしれないが・・・・。
結局、他の大学のパーティー等は、気象通報から自ら導き出した結論によって縦走を断念したので、ノコギリだろうがナタだろうが関係なかった。縦走のために出発したのは私達だけだったからだ。
で、やはりナタで良かった。
安心感がまるで違っていた。
それ以前に、ハイマツ帯を上手に迂回することで、自然に対するダメージを最小限にできたし、体力も奪われずにすんだ。それが成功の原因だったし、自然を征服しようとしなかったことが結果としてよかった。藪漕ぎというのは、体力戦ではない。頭脳戦なのだ。
それと「臭い」との戦いである。不思議なことに3週間も原生林をウロウロしていると、嗅覚がするどくなってくる。クマ・鹿の臭いに敏感になる。ハイマツの臭い、山風・海風の臭いまで敏感になり、嗅覚がすぐれてくる。そうなると、気象通報とか、NHKラジオの天気予報などに惑わされない直感(霊感)のようなものが働いて、やることなすこと全て正解を導き出してしまう。神がかってくる。そうなると今度は逆に怖くなってしまって慎重になってしまう。それがいいあんばいに働きますから不思議といえば不思議です。
つづく。
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