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2021年10月15日

クマについて【9】動物学者とマタギ

 1990年頃から1996年頃の話です。地理的に近いせいか北大のワンゲル部と知床半島でよく出会いました。彼らはどういうわけか、 知床山脈を縦走するようなことはなく、羅臼から知床岬に向かって海岸沿いばかりを歩いていました。 東大をはじめとする他の大学は、知床山脈を縦走するくらいの気概を持っているのに、彼らはどうして海岸コースばかり歩くんだろうと不思議に思っていたんですが、よくよく聞いてみたら、彼らも知床山脈を縦走していた。ただし縦走したのは夏ではなくて、冬から春先です。つまり雪のある時に縦走している。

 普通、雪山と言ったら、夏山よりも厳しいのですが、知床山脈に限って言えば、そうではない。
 はっきり言って、知床の雪山は楽に縦走できる。
 ハイマツの上に雪があれば、あっという間にハイマツ帯を通過できる。
 そういうことを知っていたので、北大のワンゲル部の連中は、夏は海岸伝いで知床岬にいく。
 地獄のハイマツ漕ぎは絶対にしなかったわけです。

 私は、彼らに
「雪山を縦走する時に、困ったことはなかったの?」
と聞いたら
「テントを張って、調理していたら雪の中から、冬眠から目覚めたヒグマが出てきたことがありました」
「ええええええええええええ? それでどうしたわけ?」
「テントを撤収して、遠くに逃げましたよ」
 実は、こういう話をよく聞きます。雪の上にテントを張ってガサゴソしていると、雪の中から熊が出てくる話は、腐るほど聞いてきました。1990年代の北海道の雪山にテントを張るワンゲルの間では珍しくないエピソードだったわけです。





 長い前置きはこれくらいにして本題に入ります。

 1990年頃、ヒグマについて調べているうちに、動物学者の言うことと、マタギの言うことに違いがあることに気づき、だんだん気になりだしてきました。また、中国地方の動物学者の言うことと、北海道地方の動物学者の言うことも違っていることが気になってきました。例えば北海道の動物学者は、マタギの伝聞を重視していました。 それに対して西日本の動物学者たちは、そういうものを無視していました。マタギの伝聞にしても、北海道のマタギと東北のマタギでは、微妙に違っているし、北海道のマタギにしても、アイヌの猟師とシャモの猟師では、ヒグマに対する考えが微妙に違っています。

 まあそんなことはどうでもいいとして、面白かったのは、冬眠から目覚めたヒグマの話です。 冬眠から目覚めた熊は、長いこと餌を食べてなかったために体が弱っていると動物学者なんかが言うわけですが、北海道のマタギの人の話だと、 まるで逆です。冬眠から目覚めた熊ほど元気なクマはないと言います。

 どのぐらい元気かと言うと、親子で雪の上に滑り台を作って滑って遊ぶと言う。餌も食べずに遊んでばかりいるという。こぐまも遊ぶけれど、母親も遊ぶ。と言うか母親が率先して遊んで見せて、子熊を遊ばせるようにする。

 我々の常識からすると、冬眠中餌を食べてないわけだから、そんな元気があるわけがないと思ってしまうんですが、そうではないという。むしろ元気に遊んで、 遊んで遊んで遊びまくらないと胃腸が動かないんだという。一週間ぐらい遊んでないと、食事が食べられるようにはならないんだと。

 にわかには信じられない話なんですが、年から年中ヒグマを追いかけているマタギは、そう証言しています。母グマが、こぐまのために滑り台を作るというのも凄い話ですが、自分も滑り台で遊ぶと言うから驚きます。そのくらい、クマというのは、子供に対して愛情深いし、知能も高いというのです。だからこそ命がけで仕留めなければいけないと彼らは思っている。





 クマは、止め足(足跡による追跡を攪乱する為にバックして足跡の着かない場所にジャンプする行動。追跡者からはある地点から突然足跡が無くなってしまったように錯覚する)を使うし、三匹いても一匹しかいないように足跡を重ねたりすると言う。すごいのになるとバックする。止め足でなくてバック。

 手負い熊が使う技で、バックして人間を待ち伏せする。知床半島で唯一、クマに人間が殺された例が、このバックによる攻撃で、手負い熊と猟師の知恵比べでヒグマの方が勝っている。ヒグマというのは、そのくらい知能が高い。つまり警戒心が高い。もちろん後天的に学習して、マタギを撹乱する術を身につけているとは思いますけれど、マタギならではの証言です。だからクマに対すする対処方法を一般化はできないと言われている。個性の差が大きすぎて、対処法則が成立しにくいと言われている。

 もともとヒグマは、アイヌの人たちは「キムンカムイ(里の神様)」と言っていた。つまり里で暮らす動物で山奥にいたわけではない。里山で人間たちのそばで生きていたという。そして人間をじーっと観察している。それが証拠に発信器をつけると、かなり人間の近くにいることがわかるけれど、ジーッと動かない。こっちからは見えないけれど、数メートルのところにいて、じーっと動かない。人間が去って行くのを辛抱強く待っていることが分かっている。

 つまり、もともと臆病な動物だという。それが証拠に水場に出てくる方向が、いつも同じで踏んだ足跡も同じ。人間が、その上を歩いてみると音がしない。つまりクマは、それだけ警戒して同じ処だけを踏んでいる。それだけ用心深い。

 それを私は事前に知っていたのでヒグマに出会っていても慌てることはなかった。彼らが逃げると天地が揺れたが、茂みに入ると、天地の揺れがピタリと収まる。つまり、近距離でじーっとしてて、人間が立ち去るのを待っているわけだ。

 にもかかわらず、人間が茂みにはいってしまうと大変なことになる。
 山菜採りの人たちが、クマにやられてしまうのは、
 こういうことでおきる事故なのです。


 クマは、かなり近距離にいて、人間が去るのを待っているのに、どんどん近づいてくるから襲われるのだ。こういうことをマタギの人たちは、長年の経験から実によく知っている。動物学者よりよく知っている。

 で、知床半島からマタギがいなくなってしまったら、急に海岸沿いにヒグマが現れ始めた。1990年ころからヒグマが、どんどん出てくるようになってきたわけです。で、現在の知床ですが、どうなってるか分からない。マタギがいなくなって何十年もたっているので、ヒグマの性格もずいぶん変わっているだろうし、私が、このブログに書いていることも、今では通用しなくなっていると思う。なにしろクマは、後天的に学習する知能の高い動物ですから。

 次からは、北軽井沢のツキノワグマの話をします。


つづく。

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posted by マネージャー at 07:52 | 自然−動物

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