宮崎さんは十匹のツキノワグマを同時に育てた人です。
で、ツキノワグマの子熊を育ててみたら、子熊は環境によって個性が全く違ってくるということが解り、後天的な学習によって、いくらでも変化することを発見しました。その体験記録を本にし全国の書店にならびます。このツキノワグマ日記を主に読んだ人は、子供より大人たちだった。私のような動物好きの高校生や、当時の鉄砲猟師(ハンター)たちが、この本に驚愕し、夢中になり、実際にツキノワグマをペットとして飼う人たちもあらわれた。しかし、みんな短命で死んでしまう。
なぜか?
栄養が良すぎたからだった。
宮崎さんが世に出した「ツキノワグマ日記」は、テレビ放送されるムツゴロウのどうぶつ王国の大ブームにも影響されてベストセラーとなり、これを読む鉄砲猟師たちも多く、クマ撃ちを止める人たちもいて、ペットとしてツキノワグマを飼う人たちも少なからずいた。知能の高いツキノワグマを飼ってみると可愛くてたまらないらしく、ついつい餌をあげすぎてしまう。宮崎さんのツキノワグマも栄養が良すぎていた。10匹もいるので、他の方に比べたらマシだったけれど、それでも糖尿病になるツキノワグマがいた。当時、ツキノワグマには、まだわからないことが多かった。栄養価の高いエサを与えればいいというわけでもなかった。
マタギたちは、熊は粗食でエサを食べないという。
動物学者たちは、あの巨体を維持するために熊は大食漢だという。
どっちが本当なのか?
長い間、分からなかったのですが、宮崎さんの経験で熊は粗食であることがわかってきた。
熊にかぎらずイノシシなども粗食。熊は小さなアリを一日中たべているし、イノシシは栄養価皆無のミミズなんかをたべている。それで、あの体型を維持しているのだが、六甲山のイノシシのように餌付けされてパンなんか食べさせられると、急激に巨大化して、糖尿病なんかになってしまう。人間がよかれと思ってやったことが逆に作用する。これはツキノワグマも一緒で、人間の感覚で栄養価の高いモノを与え続けると、糖尿病になってしまう。
つまりマタギの言うことの方が正解だった。
クマは粗食だった。
これは覚えておいた方がいい。
春にクマは野草の新芽を食べる。
タケノコの先っちょを食べる。
山菜を食べる。
タンパク質の多いものを厳選して食べる。
そうしないとあの体格を維持できないんだと思う。
夏になると、野山に草が生い茂る。その草に目もくれずにアリを食べている。何時間も何時間も草原の石ころをひっくり返してアリをみつけては食べる。カロリーという面から考えたら、こういう食生活は非効率そのものなのだけれど、かならず理由があるはず。クマの体型をささえるうえで必用なタンパク質を採取するには、春先に出てくるタケノコの先っちょは絶対にかかせないし、夏のアリ・甲虫も欠かせないものだったのかもしれない。逆に言うとそれらを横取りする山菜採りの業者たちは、熊にしてみたら許せない存在。だから事故が起きてしまう。 山菜とりをする人は、それをよく考えた方がいい。
それからもう一つ。飼っているツキノワグマが十匹もいて、一匹のこぐまも生まれなかったのは、日光浴と関係あるらしいこともわかってきた。ツキノワグマもヒグマも日光浴が大好きなのですが、普通の民家でクマを飼った場合、どれだけ大きなゲージを作っても自然の中に生きてる熊に比べて日光浴が少なすぎる。そのために性器の発達が野生の熊に比べて未熟だったらしい。 これが登別のクマ牧場になると、日光浴がし放題なので、こぐまがどんどん生まれています。 けれど宮崎さんの所では、そこまで敷地が広くなかった。400坪の庭は、一般家庭では広いくらいですが、十匹の熊にとっては非常に狭かった。そのために日光浴が足りなかったらしい。
それから驚いたことは、10円玉を飲み込んだツキノワグマが死んでしまったことです。ツキノワグマのうんちはかなりでかい。私も野生の熊のうんちを見ていますが、 相当な大きさです。だから10円玉の一枚や二枚飲み込んだところで、死ぬなんて普通なら考えられない。しかし実際飲んでしまったら10円玉が腸に詰まって死んでしまった。原因を調べるために解剖してみたら、10円玉が腸を塞いでいた。クマの腸は非常に細い。だから10円玉程度の小さなものでも詰まってしまって便が流れなくなる。それが原因で死んでしまっていた。
ということは、もし熊の生息区域に十円玉が落ちていたら、 それを飲み込んだ熊は死んでしまうかもしれない。10円玉でなくても似たようなゴミが落ちていたらツキノワグマが死んでしまう可能性がある。 例えばジュースなど甘いものが付着したプラスチックのゴミが、 熊が生息している地域に散らばっていたら、ツキノワグマの命はないかもしれない。そう考えるとゴミの問題は非常にデリケートな問題になってしまう。キャンプ場を使う人たちは、その辺をよく考えて利用した方がいいと思う。
つづく。
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