子熊だった。
北軽井沢に引っ越してきて20年になるが、はじめて国道146号線で子熊を目撃した。断っておくが、国道146号線にクマがでたという話は20年間、聞いたことがない。県道235号とか、別の道路なら何回か見かけたことがあるが、国道146号線でクマ。それも子熊をみたのは私が初めてでは無いだろうか?
問題は、その子熊がコンビニ袋を咥えていたことだ。
「あちゃー、餌付けされている」
と、私は頭をかかえてしまった。ゴミが、どうして餌付けに繋がるのか?
このへんのところが、理解しにくいと思うので、もうすこし掘り下げて解説します。空き缶やペットボトルのゴミには、何も入ってないことが多いと思います。だから、それがクマに対する餌付けという考えに結びつかない。しかし、多少でもクマを知っていたら、冷や汗が流れるほど恐ろしいことなのだ。
ツキノワグマ・ヒグマという動物は、本当に不思議な生き物で、ふだんは山菜などの植物を食べていますが、どういうわけか、ある時期(5月下旬から7月)になると、一日中、林道・崖地・河原でウロウロするようになる。そして石をひっくり返しては、ひっくり返した石の裏をペロペロとなめている。まわりに好物の蕗やコゴミやマガリネのタケノコがあっても見向きもしないで、林道のわきにある石を裏返しては、それをペロペロなめている。浅間山山麓には、崖地も多いので、そういうところに出没しては、岩をひっくり返しては石をペロペロなめていたりする。
そういう光景を浅間山北面(シラ禿げルート)の登山中に何度も私は、みたわけですが、ツキノワグマのやつは、私に気が付いて、こちらを振り向いても、逃げるでも無く、面倒くさそうにそっぽをみて、岩をほじくっている。「人間なんかにかまってられるか」という感じで、何かに熱中している。その何かというのは、蟻・蜂などの昆虫類だ。あの巨体から信じられないことなのだが、小さな小さなアリを一日中食べている。そんなもの食べたって腹の足しになるとは思えないけれど、それでも必死に食べている。それも子連れの母熊が食べている。
三十年前の知床のルシャでもそうだったけれど、子熊が草原で遊び回っているのを放置して、林道でアリを食べて、番屋の漁師さんたちに怒られて車で追い回されている光景を私は見ている。あたり一面、ヒグマの大好物が茂っていたにもかかわらず、ちっぽけなアリばかり追いかけていた。
知床の森の中で、クマと鉢合わせしたことがあったが、お互いに気まずそうにして、睨み合い、クマの方から逃げていった。その時、天地が揺れた。地震がおきていた感じだった。しかし、クマが藪の中に消えた瞬間も地震はおさまった。藪の中から、こっちを伺っているようだった。どうしてだろう?と不思議に思っていたが、謎は直ぐに溶けた。私たちが腰掛けていた倒木に、虫たちがたくさんいたのだ。クマは木登りをするのだが、クルミを食べたりする以外に、樹に這いつくばっている虫たちもよく食べる。だから例外なくクマは樹の登りが得意なのである。
なぜ、それほどまでして、小さなアリを食べることに夢中になるのか? その理由は、よく分かってない。よく分かってないが、アリ・蜂が大好物なことは確かなのだ。
こうなると、道路脇に捨てられた空き缶が問題となってくる。6月の浅間高原は、アリの大発生時期だからだ。何十年かに一度は、羽アリが大発生して別荘地を襲うことがあるくらいだ。ちょっと油断すると、どの家にもアリの大群が攻めてくる。だから6月になると家のまわりに忌諱剤(石灰の粉)をまくか、基礎のところに白チョークで線をかくのが普通である。そうやってアリを防がないと、どんどん侵入してくる。そのくらいアリが凄いところなのだ。
そんな場所に缶コーヒーなどの空き缶を投げ捨てたらどうなるか? たちまちアリの大群がやってくる。もちろんクマたちもやってくるわけである。缶ビールも一緒である。というか、アリはビールが大好きなので缶ビールの缶が捨ててあったら、どんどんわいてくる。クマたちももれなく付いてくる。こうして人間たちに餌付けされていくのである。そして、人間界にクマたちが、どんどん接近していき、最悪、射殺されかねない。これはお互いにとって不幸なことです。
つづく。
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