雪人形に目を入れた翌日、私のいたクラスに転校生がやってきました。
女の子でした。
私の育った村には自衛隊の基地がありました。
当然のことながら自衛隊員の多い村でしたから、転校生は少しも珍しくありませんでした。毎年、二〜三人の人間が転校してきては、去っていく。私は、そういう村で育ったのです。
ところで子どもの頃の私には、特技がありました。
転校生と仲良くなる特技です。
ふだんから私には、これといった仲の良い友達がいませんでした。そして、これといった仲の良い友だちがいないというのは、転校してきたばかりの転校生も同じでした。そういう転校生と仲良くなるという、実に情けない特技が私にはありました。
転校生が珍しい地域であったなら、クラス中の人間が転校生を取り巻いて質問攻めにしたでしょう。しかし、自衛隊の基地がある村では転校生は珍しくもなんともなく、おまけに、その転校生たちは、いずれは別の地域に転校して去っていくヨソ者でした。
転校してくる者も、転校していく者も、幹部自衛官です。幹部自衛官たちは、定住せずに二〜三年で村を去っていきます。下っ端自衛官ならそう言うことはありません。同じ自衛官の子弟でも、遊び相手を選ぶ時は、幹部の子弟を遊び相手にはしません。第一、いつかは去っていく人たちなのですから。
せっかく仲良くなっても、いずれは消えていく。それも無茶苦茶遠い僻地に消えていく。北海道の果てとか、沖縄とか・・・・。そういう転校生と、すすんで仲良くなろうという人は少なかったものでした。
しかし、例外もいました。
私でした。
これといった仲の良い友だちが、いなかった私は、ポツンと淋しそうにしている転校生をみつけると私から声をかけていきました。そして大の仲良しになるのですが、その転校生が学校になれてきて、みんなの人気者になってきますと、どういうわけか私は、その転校生と喧嘩して別れ別れになりました。そして、また私は、ひとりぼっちになってしまうのです。
しかし、転校生と仲良くなるといっても、それも男の子の場合に限った話です。女の子の転校生とは、一度も仲良くなったことがありませんでした。
ところが、こんど転校してきたのは女の子でした。
おまけに、その転校生は、私の隣の席になりました。
私は、その隣の席の転校生をしげしげと眺めました。
色の白い女の子でした。
とっさに「雪ん子だろうか?」とドキドキしました。
いつもの私なら、誰よりも早く転校生に声をかける私なのですが、相手が女の子であることに躊躇がありました。自慢ではないが、私は誰よりも女の子に嫌われていましたし、自分も、それを勲章に思っているくらいに野蛮な、典型的な友だちいないキャラでしたから、いくら転校生であっても自分から女の子に声をかけることはできませんでした。
しかし、そんなことはお構いなしに、相手から声をかけてきました。
私の机が汚れていると、私にチリ紙を差し出してきたのです。
その時、私は全身が凍り付いてしまいました。
心臓の鼓動が止まりませんでした。
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