「どこに行くの?」
学校を休んでいるはずの転校生の声でした。
気がつくと、大きな目玉の転校生が木陰に座っていました。
「おまえ病気じゃないのか?」
「だから休んでる」
「休んでるって、ここでか?」
「うん」
「寒いだろう」
「暑い」
「熱があるんじゃないか?」
「うん」
「じゃあ、早く家に帰って寝ないと」
その瞬間、転校生は消えてしまっていました。
「まただ、どこに消えたんだ?」
「ここよ」
転校生は、まだ微かに残る白い雪原に倒れていました。
「やっぱり、お前は、雪ん子か?」
「・・・・」
「そえなんだな」
「何言ってるの、自分で造っておいて」
転校生の目から涙が出ていました。
それも黒い涙が。
おもわず転校生にかけよった私でしたが、
またもや転校生は消えていなくなってしまいました。
「まさか!」
私は、大急ぎで雪人形のところに走りました。太陽の光で、雪人形は、溶けつつあり泥だらけになっていました。墨汁で書いた目も溶けていて、それが流れ落ち、涙のようになっていました。黒い涙でした。それからの私は、怖くなって自宅に逃げ帰りました。夕食は喉を通りませんでした。黒い涙ばかりが、思い出されてなりませんでした。
深夜。
どうしても眠れなかった私は、スコップと懐中電灯を持って、あの雪人形のある山に向かいました。星の綺麗な夜でした。そして、何時間もかけて溶けかかった雪人形の修繕を行いました。墨汁の涙を削り取り目も入れ直しました。そして、家に戻ってみると、あの転校生が玄関前に立っていました。もう黒い涙は、流れていませんでした。それどころか転校生は、前より美しくなっていたような気がしました。
「ありがとう」
「いや」
「これで少しだけ時間が出来たよ」
「時間?」
「うん」
「本当は、出てきちゃいけなかったんだけれど、山から出てきちゃったんだ。でも、もう春だし帰らなきゃ」
「帰るって?」
「佐藤君は春が好き?」
「雪国の人間で雪が好きな奴なんているもんか。あ〜あ、早く春がこないかな」
「そうだよね」
「・・・・」
「でも、私は冬が好き。それも雪に埋まった銀世界が」
「・・・・」
「今夜は、星がきれいだね。きっと明日は青空だよ。だからちょっとだけ早起きして雪の銀世界を散歩してごらんよ。きっと1年で一番美しい風景が見られるはずだよ。春よりも、夏よりも、秋よりも美しい風景がみられるよ。本当だよ。雪が景色を十倍美しく見せてくれるんだ。草木の緑や、燃える紅葉よりも、もっと美しい景色を雪が見せてくれるんだ。どうしてか分かる?」
「どうして?」
「白い雪が、青い空をつくるから」
「?」
「白い雪が、青い空をつくり、その青い空が、お日様の光を大空いっぱいに覆い、そして、すべての景色をお日様の光でキラキラと輝かすから」
「・・・・」
「みんな気がつかないでいるけれど、冬は、雪のおかげで、お日様の光が一年で一番キラキラと輝くときなんだよ。だから何でも一番きれいにみえる時なんだ」
「へえ〜」
「ところで、やっと話ができたね」
「・・・・」
「佐藤君は、学校ではあまり口をきいてくれなかったね」
「それは、お前が、大きな目玉で俺の顔をのぞきこんたりするから。クラスの連中も冷やかしてくるし」
「でも、その大きな目玉を造ったのは、佐藤君だよ」
「と言うことは、やっぱりお前は雪ん子?」
「うん」
「じゃ、春になると消えてしまうのか?」
「そういうことに・・・・なるのかな」
「大変だ、今のうちに冷凍庫で氷をたくさん造っておかなきゃ」
「アハハハハ、そんなことしなくても大丈夫よ」
「どうして? あの雪人形が溶けたら、お前は死んでしまうんだろう?」
「そんな心配はいらない。もう帰るんだから」
「え? だって・・・・」
「じゃ、明日、雪の野原で」
「おい待てよ!」
転校生は闇の中に消えてしまいました。
つづく
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