
「きっと明日は青空だよ。だからちょっとだけ早起きして雪の銀世界を散歩してごらんよ。きっと1年で一番美しい風景が見られるはずだよ。春よりも、夏よりも、秋よりも美しい風景がみられるよ。本当だよ。雪が景色を十倍美しく見せてくれるんだ。草木の緑や、燃える紅葉よりも、もっと美しい景色を雪が見せてくれるんだ。どうしてか分かる?」
「どうして?」
「白い雪が、青い空をつくるから」
「?」
「白い雪が、青い空をつくり、その青い空が、お日様の光を大空いっぱいに覆い、そして、すべての景色をお日様の光でキラキラと輝かすから」
白い雪が青い空をつくる。その言葉に嘘はありませんでした。本当に白い雪が青い空をつくるのです。そして、白い雪と青い空が、台地の全てのものを美しく映し出すのです。その美しさは、春の新緑よりも、夏の山野よりも、秋の紅葉よりも輝いて見えました。冬の世界には、基本的に空の青と雪の白しか無いはずなのに、たくさんの色をもつ春・夏・秋の景色より美しく見えました。
「おはよう!」
転校生でした。
「お前は、いつも突然に現れるなあ」
「ごめんごめん、もう、そういう事はしないから。それより、どう? 朝早く起きて散歩したかいがあったでしょ?」
「うん」
「きれいでしょう?」
「うん」
「冬もまんざら捨てたものでないでしょう?」
「そうだなあ」
「冬は、色が少ないでしょう? だから今まで気がつかなかったものが見えてくるの。色が少ない分、雪の白とか、空の青とか、お日様の光の加減とか、たとえばキラキラ輝く小さな雪の結晶とか」

「でも、今まで、どうして気がつかなかったんだろう」
「見ようという気持ちがないと見ることはできないからね」
「見ようという気持ちねえ」
「そう。その気になれば、この世で一番美しいものかもしれないのに、あまりにも身近すぎて気がつかない人が多いのは悲しい事ね」
「・・・・」
「でもこの美しい景色は、一瞬で無くなってしまう。というより、一瞬で無くなってしまうから美しいのかな。今日は陽気も良いし、数時間後には雪も溶けてなくなっちゃう。残念だよね」
「ああ」
「じゃあ、ここでサヨナラ。短い期間だったけれど、おわかれです」
「え?」
「私、また転校します、遠くに行っちゃいます」
「ええ! 転校してきたばかりなのに?」
「うん、だからもう会えないけれど、元気でね」
「そんな、でも、今日だけは学校で会えるんだよな」
「それがダメなんだ、もう会えないの、サヨナラ」
そういって転校生は山の方に走り去っていきました。
私は「せっかく仲良くなったのに」と無性に切ない気分になりました。
そして学校に登校したわけでしたが、学校には、さっきサヨナラしたばかりの転校生が、何食わぬ顔で教室にいました。
「あれ? お前、また遠くに転校するっていったじゃないか?」
しかし、転校生は怪訝な顔をするばかり。
「今朝、お前と俺は、雪の中を一緒に散歩したよな、昨日の夜にも会ってるよな、昨日の夕方も・・・・」
「会ってないわ」
「そんな・・・・」
放課後、私は雪人形の山に走りました。
春の陽気に、雪は、どんどん溶けていました。
雪人形も溶けて無くなっていました。
つづく
↓この物語の続きを読みたい方は投票を
人気blogランキング